第5話 放課後カレンタイム 口止め
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リビングから聞こえる母さんとお姉ちゃんのニヤニヤとした笑い声を背に、俺たちは家を出た。
隣の家までは、歩いて十秒もかからないほどである。
俺は、華恋に先導されて白原家へ向かい、玄関の扉を開けた。
「ただいまー」
華恋が家に入ると、元気に挨拶をした。
そして、華恋のおばさんが「おかえりー」と言いながら、リビングの戸を開けた。
「あら、優作君……だよね? 大きくなったねぇ」
「は、はい! おばさん、お久しぶりです」
おばさんは、俺の顔を見るや否や、温かく出迎えてくれた。
きっと華恋が家に来た時も、母さんとお姉ちゃんはこんな反応をしたのだろう。
「ママ? 優作君に話したいことがあるから、私の部屋に行くね」
「あらら、若いって良いわね~」
「ママ? 違うってばっ!」
華恋は、顔を真っ赤にしながら、部屋の方を指さして案内をした。
「ガチャ」
部屋の扉が閉まった瞬間。
「……ふぅーっ。疲れたぁ」
華恋は、カバンを床に放り投げ、そのままベッドへダイブした。
外の格好で、ベッドにダイブ出来るタイプか。
俺は、花粉症もあって、絶対に出来ない所業である。
それよりも、学校で見せていた可憐な美少女のオーラは、この姿から想像がつかない。
目の前には、俺の知っている華恋がいて、その姿に何故か一安心をしていた。
「華恋……その姿、クラスでは想像つかないけど……」
「な、なに言っているの? 優作君、人は簡単に性格までは、直らないんだよ」
ベッドから起き上がった華恋は、俺をビシッと指差した。
その顔は、至って真剣であった。
「性格って……やっぱり、華恋は、華恋のままなんだね」
人は簡単に性格は変わらないということか。
「そ、そういうこと……だけど、今日のことは、学校で言いふらさないでね」
「今日のことって……さっきの麻雀のことか」
「そ、そう……。あの雰囲気で麻雀していたら、キャラ違いすぎるでしょ?」
華恋は、唇を尖らせながら、念を押してくる。
どうやら、本気で高校生デビューを貫き通すつもりらしい。
「わかってるよ。俺だって、わざわざ波風立てるつもりはないよ」
「……本当? 信じるよ?」
疑いの目を向けてくる華恋。
その上目遣いは、俺の心臓の鼓動を早くした。
ここだけ見ると、ただの可愛い女の子である。
「……!」
俺が少しだけドキッとしていると、彼女は何かを思い出したかのように、ハッと目を見開いた。
「そうだ! あの、優作と一緒にいたちょっとうるさい男子……西川くんだっけ? あの人にも絶対に黙っておいてよ!」
ちゃんと西川の名前を覚えていたのか。
華恋は、人の名前を覚えるのが苦手なはずだったが、心構えまで本気で高校生デビューをしようとしている。
「あー……西川には、もう話しちゃったぞ」
俺は、少しだけ華恋の心構えに感心したが、西川には既に幼馴染だということまで話してしまっていた。
「えっ!? ちょっと待ってよ! 私の高校生活、初日で終わったぁぁ……!」
華恋は頭を抱え、再びベッドに突っ伏してジタバタと暴れ始めた。
ショートカットの綺麗な髪が、ぐしゃぐしゃになっている。
「華恋、最後まで話を聞いて。最近戻ってきたってことだけだ。昔の華恋がどうだったかとかは、話してないから安心して」
「……ほんと?」
華恋が、ベッドからひょっこりと顔を出した。
「あぁ。あいつの中では、華恋は『清楚な美少女』のままだよ。だから安心しろ」
「……よ、よかったぁぁ」
ただ、あいつは勘が鋭いから、気づかれる可能性は高いが……。
心底安心したように、華恋は長いため息をつきながら胸をなでおろした。
見た目はあんなに俺のドストライクなタイプに変わったのに、中身は昔のまんま。
コロコロと変わる表情を見ていると、なんだか不思議な感覚になる。
――なんで、華恋はこんなに変わったんだろう。
帰り道で俺が立てた3つの予想。
高校生デビューか、憧れの人がいたのか、それとも……。
「なぁ、華恋」
「ん? なに?」
ベッドに座り直した華恋が、小首を傾げてこちらを見る。
その仕草は、無意識なのか計算なのかわからないが、破壊力抜群だ。
「お前……何故、イメチェンをしようと思ったんだ?」
「……!」
ピタッ、と華恋の動きが止まった。
さっきまでのリラックスした表情が一気にこわばり、顔がみるみるうちに赤く染まっていく。
目は泳ぎ、口をパクパクとさせて、明らかに動揺していた。
「そ、それはね!? その……いろいろ、あるのよ! 女の子には!」
その尋常じゃない慌てぶりを見て、俺の頭の中に、帰り道で考えた『3つ目の予想』がフラッシュバックした。
――俺の好みになりたかった……とか?
もし、俺がラブコメの主人公なら、この予想が正しいのだが……。
俺は、現実を生きるしがない男子高校生である。
……いやいやいや。まさか、な。
もしそうだとしたら、俺はどんな顔をしてこいつと接すればいいんだ。
これ以上深く踏み込むのは、なんだかとても危険な気がした。
「……いや、やっぱいいや」
「えっ?」
「なんでもない。変なこと聞いてごめん。じゃあ、用事も済んだし、俺はそろそろ帰るわ」
「ちょ、ちょっと優作!? そこまで聞いておいて『やっぱいいや』はズルくない!?」
「ズルくねーよ! じゃあな、また明日学校で!」
俺は、背後から聞こえる華恋の抗議の声を無視して、逃げるように白原家を後にした。
明日からの学校生活……俺の心臓は、果たして持つのだろうか。
華恋の高校デビューの真相とは……。
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