第50話 過保護な家族
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「リンリンリーン……」
朝の目覚ましが、静寂を保っていた室内に鳴り響いた。
いつもなら、目覚ましが鳴る前に起きることなど、ある日以外にあり得なかった。
しかし、今日は大事な球技祭の日。
俺は、どこか懐かしさを感じる緊張に包まれていた。
――こんな緊張感はいつ以来だろう……。
そういえば、バレーボールの大会当日も、目覚ましよりも早く起きていたっけ。
そんなことを思い出しながら、俺は学校へ向かう準備をのんびりと進めていた。
「ピローン」
「ん?」
そんな中、俺の携帯に1件のメッセージの通知が入った。
朝からメッセージが来るのは、課題をやっていなくて焦っている西川ぐらいだ。
それも、時間は明け方に来ることが多い。
そのため、この時間にメッセージが来るのは、俺にとっては珍しいのだ。
俺は、携帯を持ち、メッセージアプリを開いた。
すると……。
(おはよう、優作。今日、一緒に学校行かない?)
なんと、メッセージの相手は、華恋だった。
――華恋から、一緒に登校しようだと?
一体、何を企んでいるんだ……?
時々、一緒に学校に行くときは今までもあった。
用事がある時は、お互いの家の前で待つことが多かった。
これは、二人での暗黙の了解だった。
だから尚更、今日は華恋はどうしても言いたいことや相談したいことがあるのだろう……そう思った。
(おはよー。いいよ)
(今準備してるから、ちょっと待って)
(ありがとー!)
(私も朝ご飯まだだから、ゆっくりで大丈夫だよ)
(準備できたら、家のチャイム押してね)
(了解!)
俺はのんびりと支度するのをやめて、急いで準備を進めた。
◇
俺は、リビングで朝ごはんを食べていた。
華恋が待っているということもあり、いつもより早くご飯を食べる。
「優作? ちゃんと噛んで食べなさい」
「は、はーい……分かっているよ」
「早く食べると、消化に悪いわよ」
久々に母さんに怒られた。
その横で、ご飯をゆっくり食べる姉ちゃんの姿があった。
「優作? 今日から球技祭だよねー」
「え、なんで知っているの?」
「弟のことはお見通しなんだよ……」
「ちょ、ちょっと気持ち悪いんだけど……」
姉ちゃんに、球技祭があることなど話していない。
それどころか、家でも球技祭の話はしていない。
バレーボールを選択したことで、家族にいらぬ心配や、未練があるんじゃないかなど……余計な気を遣わせたくないからだ。
「気持ち悪いって、酷い……! 嘘だよ……。青葉台の前を通ったら、球技祭がどうのこうのって、JKの話し声が聞こえてきたんだよ」
「じぇ、JKって……」
姉ちゃんもまだJKというツッコミをするべきなのだろうか。
「優作は、何を選んだのかなーって。母さんも、気にならない?」
「まぁ確かに気になるけども」
姉ちゃんは、俺が何を選択したのか、興味津々のようだ。
その言葉を聞き、母さんもどこか興味がある素振りを見せている。
ここは、正直に答えるしかないか……。
「俺はね、バレーボールを選んだよ」
「え!」
二人は、俺の右膝に視線を向け、どこか心配そうな表情を浮かべていた。
「そんな、心配しなくて大丈夫だよ?」
「だって、もう昔には戻らないって、お医者さんからも言われていたじゃん?」
「球技祭だし、2日しかバレーはしないから安心して?」
「それならば良いんだけど……」
母さんは、俺が『バレーボール』と言った瞬間から、人が変わったかのような質問攻めだ。
「絶対に無理はしないでね」
「うん、大丈夫だよー。じゃあ行ってくるね」
「気をつけてね、昼ごはんは、ゆっくり食べるんだよ?」
「はいよー」
俺は、朝ごはんをささっと食べ、リビングを後にしようとしたところ……。
「優作?」
「どうしたの? 姉ちゃん」
玄関前で、姉ちゃんは俺を制止した。
そして、いつもとは違い、神妙な面持ちで、こちらを見つめていた。
「華恋ちゃんに、バレーボール姿……見せられてよかったね」
「えぇ!? 関係なくない?」
「だって、華恋ちゃんには、バレーボール姿、見せたことないでしょ?」
「ま、まぁ、そうだけど」
確かに、俺は華恋にバレーボール姿を見せたことはない。
――俺がバレーで活躍していた中学時代、あいつはもう引っ越してしまっていたから。
「頑張ってきてね」
「姉ちゃん、そこまで、球技祭で本気にならないから、安心して……?」
きっと姉ちゃんは、華恋の前で、いつもよりも張り切ってしまう俺の姿が見えたのだろう。
俺は、姉ちゃんに笑みで返す。
そして、その笑みに応えるかのように姉ちゃんも笑みで返してきた。
そして、俺が玄関のドアに手をかけると……。
「でも、ちょっと嬉しいでしょ?」
「はっ……! まだ言うか? まぁ……ちょっとはね!?」
俺が、中学時代頑張ってきたバレーボールを、全力ではないが、その姿を見せられることは、少し嬉しい。
「い、行ってくるね……!」
そう答えると、俺は恥ずかしくなり、慌てて玄関から家を飛び出した。
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