第48話 裁判(華恋VS優作)
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俺は、窮地に立たされていた。
「優作くん……早く、この質問に答えてください……」
「黙秘を続けるということは、答えられないということになりますよ」
館山さんの質問に答えることのできない俺に対して、天音さんは追い打ちを掛けてくる。
何故か、俺が「華恋の変化に気づいていることは嘘か本当か」の議題で、裁判が開かれている。
……しかも、天音さんもノリノリで裁判長を務め、華恋の弁護士は、館山さんが引き受けていた。
そして、当事者(?)の華恋も俺がしっかり答えられるか、期待と恥ずかしさが入り混じったような、少し潤んだ目を向けていた。
「優作、答えないと不利になるぞ」
西川は、俺の弁護士の立ち位置にいた。
館山さんの質問……それは……。
「最近、白原さんは、髪型についているヘアピンが変わっているんですよ?」
「当然、優作くんなら、分かるよね?」
そう、髪についているヘアピンの変化に対する質問だった。
俺は、答えは知っている……。
いつもは、オレンジ色のヘアピンを着けていた。
しかし、ここ数日前から、赤のヘアピンに変わり、昨日だけ小さく熊柄の白いヘアピンだった。
俺が出すベストアンサーとしては『数日前から、赤のヘアピンに変わり、昨日だけ熊柄の白いヘアピン』と答えることだ。
しかし、ここまで詳細に答えてしまったら、流石に気持ち悪い……。
そのため、俺が考えた作戦は……。
「華恋は、普段は赤のヘアピンを着けていたよね」
……小出し作戦だ。
三人が俺の回答に満足するまで、少しずつ答えを出す。
この作戦のメリットは、答えを全て言わなくて良いことだ。
そうすれば、俺が変態になることは、防ぐことが出来る。
それに、昨日だけヘアピンの柄や色が違ったことなど、館山さんや天音さんは気づいていないだろう……。
……そんな楽観的な考え方に至ったのだが、それが後に仇となることを、今の俺は知らない。
「……!」
俺の回答に、華恋は「おぉ~」と感心していた。
そして、館山さんと天音さんは表情に変化はなかった。
「やるな……優作」
西川も、俺の回答に感心している。
「俺は、分からなかった」
西川は、三人には聞こえない小さな声で、俺に耳打ちをした。
「流石ですね。ちゃんと白原さんのことをよく見てらっしゃる」
天音さんは、さっきの表情とは一変し、俺の答えに「うんうん」と頷き、一番納得していた。
こうして、一人が納得してくれれば、皆流される……。
俺の作戦は成功した……そう思っていた。
「異議あり!」
「はっ!」
本日二度目の、館山さんの「異議あり」を頂きました。
「優作くん……『赤いヘアピン』を覚えていたことは、評価しよう。しかし、このヘアピンは、入学式の時からずっとつけているヘアピンなんだよ」
「そ、そうだね」
「だから、私は、優作くんが『赤いヘアピン』を答えられるのは必然だと思う。それなので、新しい質問をします」
「あ、新しい質問……?」
「昨日のヘアピンの色と柄を教えてください……小さな変化に気づくなら、わかりますよね?」
「……!」
ま、まさか、昨日のみヘアピンが変わっていることに、館山さんは気づいていたのか。
そうだ……女子は、些細な変化に敏感。
例え一日のみでも、クラスの中心の華恋の変化を見逃すわけがなかった。
「ゆ、優作……答えられないの? 昨日、一緒にキャッチボールもしたよね?」
「そ、それは……」
もちろん覚えている……キャッチボールをする前に、髪をヘアピンでまとめて気合を入れていたことも分かっている。
「どうなんだ、優作。昨日キャッチボールをしていたってことは、華恋の顔は何度も見ていたってことになるよな? つまり、何度も見る機会はあったってことだ」
西川、お前は、俺の弁護士じゃなかったのか?
「もう、素直に答えられないと認めたらどうですか?」
天音さんが、俺に指を差し、止めを刺そうとしてくる。
裁判長は、中立な立場でないといけない気がするが、完全に俺を敵視している。
この裁判、どうやら俺に味方はいなかったようだ。
もう仕方がない。
こうなったら、やけだ。
「裁判長、この質問に答えることが出来たら、私たちの勝訴ということで問題ないでしょうか」
「もちろんですよ。白原さん、葵さん、異存はありませんね?」
「はい、ありません」
天音さんの問いに、華恋と葵は、息を合わせて返事をした。
俺は、覚悟を決めて『熊柄の白いヘアピン』だったことを答えることにした。
「華恋のヘアピン。一昨日までは、赤のヘアピンでした。……しかし、昨日は熊柄の白いヘアピンに変わっていました。このヘアピンは、彼女の父親が、小学生の時に遊園地で買ってくれたもの。そして、父親の誕生日の時に、決まってつけるもの……これが、答えだ!」
俺は、裁判もののドラマやゲームなどを思い出し、この裁判に終止符を打つため、身振り手振りを添えて、全力で答えた。
正直、ここまで言うつもりは、無かったのだが、ついつい饒舌になってしまった。
「ど、どうなんですか。白原さん」
「……!」
天音さんは、華恋に俺の答えが合っているかを聞いている。
華恋は、少し沈黙を保っていた……が、その顔はみるみるうちに真っ赤に染まっていった。
「せ、正解です」
華恋は、か細い声で、天音さんに答えを返した。
「な、なんだ……本当に、覚えていたんだ……しかも、そこまで詳細に……」
館山さんが手を叩いて、大笑いをしている。
俺が、ここまで真剣に答えたことが、ツボに入ったようだ。
冷静になると、ここまでこと細かく答えたことが、次第に恥ずかしくなってきた。
「俺の裁判は終わりだね……。次は『西川が誰の髪型が気になったか』の議題で開廷」
「おぉ~それ、面白そうだね!」
「お、お前……! 皆記憶無くなっていたのに!」
こうして、「優作が華恋の変化に気づいていることは嘘か本当か」」という議題は、俺の勝訴……。
その後に、西川の裁判が始まるのだった。
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