第46話 頑張る理由
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俺たちは、公園でのキャッチボールを終えた。
西川と大和とは、公園で別れを告げ、今は華恋と2人きりで家へ向かっている。
帰り道は、夕方の住宅街ということもあり、あちらこちらの家から、美味しそうな香りが鼻をくすぐってくる。
「ねぇ? 優作! あのおうちは、今晩カレーかな?」
「ねぇ! あのおうちもきっとカレーだよ!」
華恋のカレーセンサーが敏感だ。
そういえば、姉ちゃんからメッセージが入ってたな……。
『今晩はカレーだよ』って……!
「えぇ? カレーなの? いいなぁ~」
この地域で、カレーが流行っているのか?
それとも、お昼のワイドショーで、カレーの特番でもやっていたのか?
そんなことを思いつつ、華恋と並んで歩いている。
今なら、華恋に昼の出来事の愚痴を言える気がした。
「あのさぁ」
「?」
並んで歩く華恋が、不思議そうにこちらの顔を覗き込んだ。
「さっきの学校のことなんだけど……」
「あ、先輩の話?」
「そう、先輩の話……」
俺は、帰り道に2人並びながら、中学校での苦い思い出と、その先輩と何を話していたのかを洗いざらい話した。
今まで、華恋に面と向かって、中学時代にバレーボールで全国に行っていたことや、大怪我をした経緯や理由などは、全く話していなかった。
心配させたくないという思いと、カッコ悪いところを見せたくないというちっぽけな男のプライドのせいだ。
華恋は俺の話を、時には立ち止まりながらも、目を見て真剣に聞いてくれた。
その顔は、いつもとは違い、少しずつ怒りに満ちてきた表情になっていた。
◇
そして、一通り話し終えた。
俺の話を終えるころには、自宅が目前のところまで来ていた。
「許せない……!」
「……え?」
「私、その先輩、絶対に許さない!」
普段見せる『みんなが憧れる女の子』とは思えないほど、眉間にはシワがより、唇もどんどん尖っていった。
そんな表情を見るのは、長年の幼馴染の俺でも初めてだった。
「だって……優作が、バレーボールを真剣に取り組んでいたことは知っていたから……。転校してからも美那子に、全国行った話や、怪我した話を聞いていたから」
「え? 美那子に聞いていたの?」
「うん! だって、大切な幼馴染だもん」
怒りに満ち溢れている表情に変わりはなかったが、その言葉を言う時は、少しだけ表情が優しく緩んだ気がした。
「そ、そっか……。俺から話さなくてごめんね」
「うんうん? だって、優作にとって、真剣に取り組んでいたバレーボールだよ? 怪我した思い出とか、自分から言いたくないことは、私も痛いほど分かるよ」
「ありがとう……って、え? 分かるって……?」
華恋の言う「私も痛いほどわかる」という言葉に、若干の違和感を覚えた。
まるで、彼女自身も俺と似たような過去があるような、そんな重みがあった。
「わ、私の話はどうでもいいの! 今は、優作の番でしょ? 自分のことを心配してよ」
「お、おう……」
華恋は俺の背中をポンっと叩いた。
その表情は、どこか焦っている様子だった。
華恋が知らない俺があるように、俺の知らない華恋もあるはずだ。
「それで……優作」
「……ん?」
「球技祭どうするの?」
「どうするのって……」
「このまま、先輩に負けてばかりでよいの? 私だったら、球技祭で絶対に先輩に負けたくないって、思っちゃうんだけどな?」
俺はどうしたいのか。
心の中では決まっていたはずだ。
「そりゃ、負けたくないけど……」
しかし、俺のリベンジという復讐心に、クラスメイトを巻き込みたくは無かった。
「それならさぁ……。もし、球技祭でその先輩に勝って、優勝したら、私がなんでも一つ望みを叶えてあげる!」
「……!」
今、『なんでも一つ望みを叶える』と言ったのか?
まさか、俺の人生で、女の子からそんなことを言われる日が来るなんて。
「それなら、先輩に勝つって目標じゃなくて、もっと健全な目標になるでしょ?」
「け、健全……」
華恋は何を言っているんだ?
思春期の男の子に、そんな言い方をしたら、何か変なことをお願いされるかもしれない危機感はないのか?
「それに……」
「ん?」
「優作が負ける姿は見たくないの! いつでも、優作はカッコ悪いところもあったりするけど、最後は決めてくれるじゃん!」
華恋のその言葉は、俺のポッカリ空いた穴を優しく塞いでくれた。
「ありがとう……華恋!」
「感謝されることなんてしていないよ?」
「ううん? 球技祭で活躍してみせるから、ちゃんと見ててね」
「うん! 私も頑張るね!」
そうだ、この球技祭……リベンジのためじゃない。
華恋にかっこいいところを見せてやる……!
そんな気持ちで、俺は球技祭に臨むこととした。
そして、華恋もバレーボールで出場するからには、全力でサポートすることを誓った。
そして……。
「ところでさぁ」
「ん? どうした?」
「優作の家のカレー、久々に食べたいなー?」
「そ、そっか……それなら、姉ちゃんに連絡してみようか」
「ありがとう! さすが優作!」
『みんなが憧れる女の子』を目指していても、華恋の食欲は相変わらずなのだった。
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