第44話 「公園で遊ぼうよ」なんて久々に聞く響き
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体育の授業が終わり、次の歴史の授業が始まった。
俺は慌てて、教室に戻った。
「ごめんなさい! ちょっとお腹の調子が悪くて……」
俺は、歴史の先生を誤魔化し、席に着いた。
「大丈夫か? 無理はするなよ?」
「はい! ご心配おかけします」
咄嗟とはいえ、先生に嘘をついてしまった。
しかし、今の俺には、その罪悪感に気づく余地が無かった。
それよりも、迫水先輩から伝えられた衝撃の事実……。
「あれは、事故だった……」
そう割り切って、バレーボールへの未練も無理やりなくしていた。
しかし、あれが仕組まれたものだと分かった今、そんなことを話されると、簡単に切り替えられるわけがない。
――俺のバレー人生は、あの先輩に破壊されたのか
その日の授業は、全く集中ができなかった。
◇
「キーンコーンカーンコーン」
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
放課後になり、クラスメイトたちが帰り支度や部活の準備を進めていく中、俺はただ机にぐったりと体を乗せたまま、動けずにいた。
「……ゆ、優作?」
ふと、柑橘系の香りとともに、頭上から声が降ってきた。
顔を上げると、華恋が心配そうに眉を下げて、俺の顔を覗き込んでいた。
「体育館で、先輩……と話していたでしょ? それから、なにか様子がおかしいから、何か言われたの?」
「えっ? だ、大丈夫だよ! 中学校のバレー部の先輩と久々に会って、昔話をしていただけだよ? し、心配しないで!」
俺は必死に作り笑いを浮かべた。
しかし、華恋は納得しない様子で、更に距離を詰めてこようとした。
「優作……」
「……?」
「ううん? 何でもない……。何か、心配ごとがあるなら、私に相談してね」
「あ、ありがとう……」
華恋は、いつもより控えめな穏やかな笑顔をこちらに向けた。
――俺の作り笑いとは、段違いのスマイルだ。
そんな笑顔を見て、俺の心を覆っていた雲みたいなものが、少しだけ晴れた気がした。
「おーい、優作!」
「優作先生ー!」
後ろから突然、大きな声と共に西川と大和が俺の席にやってきた。
「今日、顧問が急遽不在になってさ。バレー部休みになったから、これから公園でソフトボールしないか?」
「お父さんが野球好きで、グローブとボールもありますよ」
大和が目を輝かせている。
正直、今の俺にそんな気力はない。
俺が、断ろうかと口を開きかけた瞬間……。
「私もやる!」
「えっ!? か、華恋?」
華恋が、ビシッと手を挙げて宣言した。
『みんなが憧れる女の子』である彼女が、放課後に男子とソフトボールなど、普段の彼女なら絶対に避けるはずだ。
最近の華恋は、俺の前では素が出すぎている気がする。
料理の時も、失態をさらしたからか、もう『みんなが憧れる女の子』は目指していないのか……真意は不明だ。
「優作はソフトボールしないの?」
「えっ……俺も?」
「当たり前でしょ? 昔、美那子と優作と香澄お姉ちゃんとよく公園でキャッチボールしてたじゃん!」
「それは、そうなんだけどさぁ」
「ほら、下向いていないで、優作も行くよ! 葵はどうする?」
華恋は、俺の机の隣に座って携帯を見ている館山さんに声を掛けた。
「私はパスかなぁ~、これから、バイトの面接があるんだよ」
館山さんは、これからバイトの面接があるらしい。
その言葉を聞き、華恋以上に西川がガッカリと肩を落としている。
「そ、そっか……ってバイトするの?」
「そう! 駅前の本屋さん! 私、一度本屋さんで働いてみたかったんだよねぇ」
館山さんは、本屋さんでバイトを始めるらしい。
会話を聞く限り、天音さんと以前に行った本屋さんっぽい。
「館山さんが、本屋のバイトを選ぶなんて……なんか意外だな」
「えっ? 西川君? それって、私に本が似合わないって言っているの?」
「そ、そういうわけじゃないけど……喫茶店とかスーパーの方が、人気でそう……いや、似合いそうだなって」
「人気でそう……ってどういう意味?」
「……! いや、なんでもない?」
西川の失言(?)を館山さんが見逃さなかった。
まるで、相手のミスを見逃さないプロスポーツ選手のようだ。
「私がバイトの面接受かったら、ぜひ遊びに来てね?」
「いやいや……喫茶店感覚で、本屋さんに遊びに行けないでしょ」
「そ、それもそっか……」
二人の会話が弾んでいる。
俺と華恋、大和は置いてけぼりだった。
「じゃあ、俺も久々にソフトボールするか」
「え? 優作も来てくれるの? じゃあみんなで公園に行こうか!」
俺は久々に『みんなで公園に行こうか』という言葉を聞いた。
この言葉は、まるで小学生が友達を誘って遊ぶときみたいだ。
俺は、華恋を1人で置いていくわけにはいかず、結局4人で公園へ向かうこととなった。
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