第43話 過去との接触
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「キーンコーンカーンコーン」
体育の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
「え!? もう1時間経ったの?」
「本当ですね……早すぎます」
この授業を一番熱心に取り組んでいた、館山さんと天音さんが、時の流れの速さに驚いていた。
俺は、各所に転がっているボールを片付けていた。
次の授業でも使うネットはそのままにしていたが、紐が緩んでいたので、締め直していると……。
―—締め直すの……懐かしい。
俺は、ネットの紐を締めることは得意だった。
先輩からも「優作は締めるの早いね」とよく言われていた。
一つ一つの作業や工程が懐かしいと、感傷に浸っていると……。
「あれ!? 優作くんじゃないっすか?」
俺は、体育館の入り口から聞こえる低い男の声の方向を向いた。
「……! さ、迫水先輩?」
そこには、中学時代のバレーボール部で世話になった迫水先輩の姿があった。
その時よりも、髪は長髪になっており、体型は少しぽっちゃりとした様子だ。
「元気だったかー?」
「え、まぁぼちぼちです」
「そっかー! お前もこの高校だったなんてなぁ」
ガハハと笑う迫水先輩は、俺と肩を組んだ。
俺が違和感を覚えるほど、その肩組みは強引だった。
――こんなにガンガンと来る人だったか?
普段は、遠いところからみんなを見守っているような印象が強かった。
それが心強く、後先考えずにバレーボールに集中ができたわけだが。
そして、俺は疑問に思ったことがある。
「迫水先輩、ひとつ質問いいですか?」
「ん? どうしたー?」
「先輩……バレーはやっていないんですか?」
そう、ここの体育館に来ると言うことは、彼はもう『バレー部』ではない。
バスケをするのかという疑問も浮かんだが、先輩は苦手だったはずだ。
それに、元々は俺の控えだったとはいえ、全国大会でスタメンのセッターを務めたことを考えると、もっと強豪のバレー部からスカウトが来てもおかしくない。
「あ、あぁ……実はなぁ……」
「実は……?」
「俺も、膝を壊したんだよ」
「……え!?」
俺と、迫水先輩の間に、数秒の沈黙が生まれた。
それは数秒にしてはとても長く、辛い時間だった。
何故なら、俺も同じように膝の靭帯を怪我し、すべてを失う絶望を味わったからだ。
迫水先輩がどこまでの怪我をしたかは、恐ろしくて聞くことは出来なかったが、どれだけ辛い思いをしてきたかは痛いほどわかる。
「先輩……」
苦しく、出てきた言葉はそれだけだった。
「俺はなぁ、もうバレー部ではない」
「そ、そうなんですね……。俺も、実はバレー辞めちゃったんですよ」
「……」
俺もバレーボールを辞めたことを、迫水先輩に伝えた。
すると、先輩はしばらく沈黙を保っていた。
……それは、当然なのかもしれない。
何故なら、迫水先輩が練習で打ったサーブが、膝に違和感を持っていた俺に、運悪く当たってしまった……。
そして、止む無く俺はバレーボールを続けられなくなってしまったからだ。
俺は今まで、自分のバレーボールを奪ったあの件は、ただの運の悪い事故だと思っていた。
この言葉を聞くまでは……。
「お前に、ボールを打ち込んだ……あの日の仕打ちなのかもしれないなぁ」
「え、ボールを打ち込んだ?」
迫水先輩が何を言っているか、俺にはすぐには理解出来なかった。
「あぁ、気づかなかったのか? 俺が、お前の膝の違和感に気づいていて、少し怪我させてやろうと思い、スパイクを打ち込んだことを」
迫水先輩は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、俺に衝撃の事実を並べていく。
「……え? それって、どういう意味ですか?」
「俺はあの時、チームで一番上手いと煽てられていた。……お前が現れる前まではなぁ」
「そ、それは、先輩から何となく聞いていましたけど……」
「ほぉ~? 知っていて、あの態度をとってきたのか?」
「あの態度……?」
俺には、全く思い当たる節がなかった。
それどころか、能天気な俺は全く気づいていなかった。
迫水先輩に、恨みを買われていたことに……。
「お前が、俺に言ったんだよ……」
「……何を、言ったんですか……」
「迫水先輩がベンチにいると、心強いです……ってなぁ」
「え?」
この言葉が、恨みを買う理由なのか?
俺には、全く理解が出来なかった。
「お前は、ベンチでゆっくりしていろ? って意味だよな?」
「そ、そんなつもりでは無くて……」
迫水先輩がベンチにいることで、俺たちも安心して、試合に臨める。
……万が一、俺にアクシデントが起きたり、調子が悪くなったりしても、迫水先輩がベンチにいる……。
その安心感を褒めたつもりだった。
「まぁ、お前はバレー脳には長けているが、人の感情を読むことに関しては、欠如しているからな」
「え……そ、そんな……」
俺は、何も言い返すことが出来なかった。
「キーンコーンカーンコーン」
次の授業が始まるチャイムが鳴り響いた。
「フッ、その様子だと、お前もバレーを選んでいるんだよな……」
俺は、迫水先輩の言葉は聞こえていたが、返事を返すことが出来なかった。
「お前の組に当たったら、絶対に負けないからな? 全力で叩き潰してやる」
「……!」
俺のせいで、あんな風に皆でワイワイとバレーボールが出来なくなるかもしれない。
俺は、迫水先輩と当たる前に、1組が負けてほしい……情けないことに、そんな風に思ってしまった。
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