第39話 幼馴染は、味覚が偏っている
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高校生活、最初の中間考査を終えて、幼馴染3人は、再び俺の部屋に集まっていた。
最初は、俺の部屋に人が集まることに違和感しかなかったが、人間は不思議なもので、段々と慣れていくものだ。
「美那子……本当にありがとう!」
「いいえ、あなたが勉強頑張ったからだよ」
「美那子もトップ10入りおめでとう!」
「もうちょっと、自信あったんだけどね……」
2人は、目の前で互いを称え合っている。
相変わらず、机の上に置いてある煎餅をパリパリと食べる2人。
この光景も見慣れたものだ。
「……あれ?」
「……ん? どうした?」
華恋が、机の上に置いてある、袋入りの煎餅を味ごとに綺麗に並べていく。
そして、彼女は俺の方を睨み、頬を膨らませた。
「優作! いつもの味がない!」
「いつもの味……って、のり塩か。昨日食べちゃったかも」
「なんで? 明日来るってわかってたのに、私の分も残しておいてくれなかったの?」
「いや、そんなに食べたいなら、自分で持ってきなよ?」
華恋は、不満そうにこちらを睨む。
睨まれても、のり塩味の煎餅が出てくるわけではない。
「華恋? この味も美味しいよ?」
そう言うと、美那子は自分が食べている煎餅を1枚、華恋に食べさせた。
「パリっパリ……ん!? これ、何味?」
「これはね、『わさび醤油味』だよ?」
「わさび醤油? ……なにこれ、美味しい!」
そう言うと、華恋は綺麗に並べていた煎餅たちから、わさび醤油味を取り出し、袋を破った。
「のり塩と争うぐらい好きかも!」
「お、そっかー……って、マジか」
「ん? どうしたの? 優作……」
俺は、華恋にわさび醤油味の煎餅が気に入られたことが複雑だった。
なぜなら、2人はわさび醤油味の煎餅をあまり食べない。
俺はこの味が一番好きだったから、2人が帰った後にボリボリと1人で食べていた。
「この味……美味しいよね!」
「うん! いつも残しちゃってたのが、勿体無い」
華恋は、頭を抱えて大げさに後悔をしている。
「俺の密かな楽しみだった、わさび醤油味が……」
俺がボソッと呟くと、華恋と美那子がピタッと動きを止めた。
「えっ? 優作、これそんなに好きだったの?」
華恋が、手にしたわさび醤油味の煎餅をまじまじと見つめる。
「そう……意外とツンとした味が癖になって、華恋たちが帰った後、一人でよく食べていたんだよね」
「あ、そういうことだったんだ! いつも、わさび醤油味ばかり残して、ちょっと悪いなって思っていたんだよね……この世には、美味しいものってまだまだあるんだね……」
急にスケールが大きいことを言い始める華恋。
「まぁ、美味しいのがバレちゃったのなら、皆でバランスよく食べていこう」
「そうだね! バランスよく食べていこう」
そうは言ったが、華恋は、再びわさび醤油味の煎餅の袋を開ける。
机の上には、悲しくも何枚も残る『コンポタ味』と『明太子味』があった。
「バランスよくって言っているのに……」
「私は、コンポタ味好きだよ」
美那子は、コンポタ味の煎餅を手に取った。
「ちょっと、しょっぱいのばかり食べていたら、甘いもの食べたくなっちゃった」
「甘いもの? チョコとかなら、冷蔵庫にあった気がするけど」
「本当!? そのチョコ食べたい!」
華恋は、煎餅をパリパリと食べながら、俺に「取って来て」と目で訴えている。
「人使いが荒いんだから……」
「いいでしょ? 私のおかげで、英語の点上がったんだから」
それを言うならば、華恋は、俺のおかげで数学の点が上がったと思うが……。
言い返すと面倒臭そうなので、ここはグッと堪えた。
すると、華恋は悪戯っぽく微笑みながら、手元にあったわさび醬油味の煎餅を、俺の口元へと差し出してきた。
「ほら、早く取ってきたら、私の手元にある1枚、食べさせてあげよう」
学校では『みんなが憧れる女の子』のはずなのに、俺の部屋だと途端に距離感がバグる。
至近距離で見つめてくる華恋の顔立ちに、俺の心臓は一瞬で跳ね上がった。
「えっ!? いいよ……自分で食べるから」
「私が、直々に食べさせてあげようとしているのに……もうこんなチャンスはないからね? ……ほら、あーん」
こんなチャンスは、二度とないかもしれない。
一瞬、心のどこかに迷いが生まれた……その時だった。
「全く、この2人は……。ねぇ、私まだここにいるんだけど?」
机の向こうで、美那子が顎に手を突きながら、完全に呆れ果てたジト目を俺たちに向けていた。
演劇志望だけあって、その演技力は無駄に高い。
「あ、ご、ごめん! じゃあ、美那子にも食べさせてあげるね?」
「はーい……パリッ」
俺の目の前で、美那子は華恋からのあーんを見せつけてくる。
――くっ、見せびらかしやがって……。
俺は、ちょっとだけ、美那子が羨ましいと感じたのだった。
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