第35話 幼馴染×勉強会①
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5月下旬……。
ドタバタな調理実習から、数日が経過した。
少しずつ気温は高くなり、過ごしやすかった日々も、夏の足音が少しずつ聞こえるようになってきた。
そんな休日のある日……俺の家に、予期せぬ来客があった。
「優作……テストがまずいです」
「そっか……って、華恋って、ちゃんとノート取ってなかったっけ?」
俺の部屋に華恋が訪ねて来た。
どこかの誰かさんのように、こちらもアポ無し。
――俺の友達は『アポイントメント』と言う言葉を知らないのか?
「なんで、私がノートとっていること知っているの?」
「え!?」
「まさか、授業中に私のこと見ているの?」
「た、たまに視界に入るから……その時にノートとっている姿をよく見るんだよ」
「私が視界に入る……ねぇ?」
少しニヤリと不敵な笑みを浮かべて、俺の顔を覗き込んできた。
そんな華恋に一瞬ドキッとする。
「と、とにかく……しっかりノートとっているんじゃないの?」
「そ、そんなのさぁ」
さっきの不敵な笑みはどこに行ったのか、一瞬で顔色が曇る華恋。
「ノートを取っているからって、頭に入ってくるのとは違うでしょ?」
「ま、まぁ確かにそれはそうだけど」
俺もさっぱり意味が分からずに、とりあえず黒板を丸写ししてノートを取ることなんてしばしばある。
「じゃあ、ノート見せてよ」
俺は、華恋が書いているノートを見せてもらった。
「あ……めっちゃ綺麗……」
華恋のノートは、カラフルなボールペンで、見出しや装飾の文字が書かれている。
それだけではなく、線も定規で引かれており、覚えるというよりも、書くことに重点が置かれている気がした。
「というかさぁ……」
俺は、それよりも気になることが1つあった。
「重要単語に線とか引かれてないよね?」
「さ、さすが……すぐに気づくなんて!」
いや気付くよ、説明書きがカラフルで、重要な単語が黒字なんて……カラフルにしている意味がないのでは?
華恋は、ニコッと笑みを浮かべた。
「待ってろ……今、ある人を呼ぶ」
「ある人?」
華恋は、首を不思議そうに傾けた。
俺が呼ぶ、ある人とは……。
◇
数十分が経過し、家のインターホンが鳴った。
俺は、華恋を2階に待たせたまま、玄関を開けるために1階へ降りた。
「ガチャ」
俺が玄関のドアを開けた。
「急に呼んで悪いね……」
「何も警戒なく、ドアを開けるとは……お前には警戒心がないのか?」
俺のお腹に突きつけられるおもちゃの銃。
「誰が警戒心がないだと? 美那子の方こそ、警戒心がないのでは……」
美那子が即興劇をすることは読んでいた。
俺も、おもちゃの銃を用意し、美那子のお腹に当てた。
閑静な住宅街に流れる物騒な会話……。
「レディーのお腹を触るとは……お主もやりますね……」
「あんたこそな……って、そんなことをしている場合じゃないんだよ」
美那子の即興劇に乗せられたが、今はそんなことをするために呼んだんじゃない。
「華恋に、ノートの取り方を教えてあげて?」
「え!? 前に教えたはずなんだけどな……」
美那子は、勉強は俺よりも出来る。
ノートの取り方も勉強のコツも熟知している。
勉強を教えるには、美那子の方が適任だ。
あわよくば、俺も便乗して勉強を教えてもらおう。
「……ってことは、華恋は今お家の中にいるの?」
「うん、今部屋にいるよ?」
「へぇー、そっかぁ〜?」
「なに?」
「ううん? 何でもない!」
美那子は、俺の顔を横目で見ながら、ニヤニヤと家の中に入って行った。
俺は、この美那子の様子を見て、彼女が何を考えたか分かった。
――何か、やましいことでもしてると考えたか?
俺の家に、華恋が来ることなんて、日常茶飯事なのに何を勘違いしているのだか……。
美那子は、洗面台に進み手を洗い、2階へ上がって行った。
俺は、飲み物でも入れて持っていこうと思い、一度1階の台所へ向かった。
そして、ペットボトルのジュースやお茶をお盆に乗せて、2階へ上がった。
「ガチャ」
俺は、自分の部屋の扉を開けると……。
「華恋……前から思っていたんだけど、胸大きくなった?」
「え!? 美那子!? 急に何言うの?」
おっと……これは、男子があまり聞いてはいけない会話かもしれない。
飲み物を持つ俺と、机の前で顔を赤くする華恋。
2人の目が一瞬合ってしまう。
目のやり場に困った俺は、机に飲み物を置き、無意識に一瞬だけ華恋の胸元に視線を向けてしまい、慌ててベッドの上に座った。
「そ、そんなことはいいから、美那子……勉強教えてよぉ」
「別に構わないけど、歴史や数学は、優作に教えてもらいなさいね」
「分かったよー! ほかの教科も教えて!」
華恋が美那子に頭を擦り付ける。
まるで、懐いたワンちゃんのようだった。
「優作!? あなたもこっち来なさい?」
「え!? 何で俺も?」
「あなたも、勉強教えて欲しかったんでしょ?」
「はっ! 何でわかる……」
「あなたが考えていることは、お見通しなんだよ」
美那子には、頭が上がらない。
俺が、自分の家に率先して人を呼ぶことなんて、普段の俺を知っていればあり得ないと思われているのだろう。
バレたなら仕方がない……。俺も便乗させてもらおう。
「ありがとう! 美那子先生!」
「せ、先生?」
「優作、大和くんみたいだね」
この時、大和が尊敬している人を先生と呼びたくなる気持ちが、少し分かった気がした。
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