第33話 華恋と天音の大暴れ
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波乱の班決めから1週間。
ついに、調理実習の当日を迎える。
俺たちは、B班として窓際を陣取った。
メンバーは、リーダーの西川、館山さん。
そして、唐島くんと安藤さん、それに夏川さんと俺を含めた6人だ。
唐島くんとは時々話す程度であり、安藤さんや夏川さんと話すのはほぼ初めてだ。
このメンバーは、コミュ力お化けの館山さんが仲良くなった人たちで固められた。
俺の特性の人見知りが発動しそうだ。
今日のメニューは、カレーの他に、班単位で自由に決められる副菜。
俺たちが選んだものは、ほうれん草の胡麻和え。
俺と夏川さんでほうれん草の胡麻和えを担当することとなっている。
「緑ヶ丘くん、野菜の皮剥けたりする?」
「え、うん。ピーラー使えば剥けるよ!」
「じゃあ、お願いしてもいいかな……私、指まで削りそうで……」
夏川さんは、笑顔で怖いことを平然と言う。
「まかせて!」
隣で事故現場を見るわけにはいかない。
俺は胡麻和えに使う、人参の皮剥きを始めた。
「優作くん? じゃあ、これも皮剥いてー?」
館山さんは、カレーに使う野菜も俺の目の前に置いた。
目の前には、じゃが芋と人参、玉ねぎが置かれている。
俺はふと思った……。
6人も1グループに要らないだろ……と。
「はいはい、でも切るのは自分たちでやってね」
「ありがとう! 優作くんは優しいから、こういうふうに扱うんだよ?」
と、館山さんが悪戯っぽく笑う。
「そうなんだね……ありがとう!」
安藤さんからも感謝の言葉をもらった。
このままだと、うまく利用されてしまいそう……。
「おい、口より手を動かせ。肉炒めろ!」
俺は、館山さんの手のひらの上で踊らされている気がした。
そして、このやり取りを見ていた西川からのチクチクとした冷たい視線を少し感じた。
「……しろ……らさん?……包丁おか……い……です」
俺は、野菜の皮剥きをひたすら行う。
「シャッシャッシャッシャッ」
この音が、今日一日は、脳裏にこびりつきそうだ。
俺が野菜の皮剥きを行っている間に、夏川さんにはほうれん草のアク抜きをしてもらった。
B班は、比較的手際良く、カレーとほうれん草の胡麻和え作りが、進められていた。
「……あま……さん……火力つよ……ぎ……ます」
さっきから、遠くから声が聞こえる……。
「……!」
――そういえば、華恋たちの班はどうなっているかな……。
俺は無心で野菜の皮を剥いていたので、華恋達の動向をチェックするのを忘れていた。
華恋たちの班は、F班であり、家庭科室の1番後ろの廊下側。
俺たちとは、真反対の場所にある。
俺が恐る恐るF班の方を見ると……。
「……はっ!」
調理台は、全長約5メートル。
その端っこにシンクがあり、そこに華恋……その反対のコンロに天音さんが立っていた。
そして、大和がその2人の面倒を見るかのように、調理台の周りを素早く行き来していた。
ここから見る限り、包丁の握りがおかしい華恋と、肉を強火でずっと炒めている天音さんの姿があった。
「た、館山さん……」
「ん? どうしたの?」
俺は慌てて、野菜を炒めている館山さんにF班の様子を見てもらった。
「あ……。すっかり忘れていた」
なんたる大失態……。
2人で一瞬でも華恋と天音さんの面倒を見ようと結託したとは思えない。
「ちょっと、お皿取りに行くがてら、様子を見てくるね!」
俺は、F班の後ろにある食器棚へ向かった。
「天音さん! 火力強すぎるよー!」
「華恋? 私が変わるよー!」
大和だけではなく、他の班員もてんやわんやしている。
きっとここにいるクラスメイトは思っただろう。
人は見かけによらないものだ……と。
F班はなるべく直視しないように、食器を取りながら背後の様子を窺った。
「ここまでだったんですね……」
「え!?」
――びっくりした……。
真横には、疲れ果てた大和の姿があった。
「僕の命もここまでだったんですね……」
「命? そんな大袈裟な……」
食器棚の陰からシンクの方を見ると、華恋が両手に包丁を持っていた。
そして顔には、カレーの隠し味で使う予定だったトマトケチャップがついている。
そしてコンロには、強火で肉を炒めている天音さんの姿が……。
華恋は殺人鬼のような佇まい……そして、天音さんは、剥ぎ取った肉を炒めていると言ってもおかしくはない地獄絵図……。
――ここだけ、雰囲気が異様だ。
「大和……華恋には、皿洗いを任せろ! あいつは、家でも皿洗いなら出来たはずだ!」
俺は、昔から華恋は両親の手伝いで皿洗いをしていることを思い出した。
「大和くん! サリィはああ見えて、プライドが高い……だから、下手に出れば、話は聞いてくれるはずだよ」
館山さんも心配になったのか、気がついたら俺の隣に立っていた。
「な、なんで……」
「……?」
俺と館山さんは、大和がボソッと呟いた言葉を聞き取れなかった。
「なんで、もっと早く言ってくれないんですかー!」
「……えっ?」
大和から初めて聞く強い口調……。
「制御方法があるなら、もっと早く教えてください!」
「制御方法って……」
俺は「2人は暴走した機械じゃないんだぞ……」と心の中で突っ込みたくなったが、ここはグッと抑えた。
「その方針で進めてみます! 制御出来なかったら、2人も助けに来てくださいね」
「お、おう……」
そう言い、大和はF班に戻って行った。
俺と館山さんは目が合った。
「次、調理実習がある時はさぁ」
「うん」
「お互い分かれて、1人ずつ面倒見ようか」
「そ、そうだね……」
俺と館山さんの2人の中で、この学校を守るために……謎の絆が芽生えたのだった。
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