第18話 緊急事態……With姉ちゃん
いつもお読みいただきありがとうございます!
俺は、窮地に立たされていた……。
今日、ゴールデンウイークに同級生と遊ぶことが決まった。
そのこと自体は、とても嬉しいことだし、楽しみだ。
楽しみなのだが……。
「ダメだよ……優作? あなた、先週もゲームが欲しいからって、お小遣い前借りしたよね?」
そう、財布がすっからかん……。もっと簡潔に言おう……。
――金欠に陥っていた。
せっかく、遊ぶことが決まったのに、十分楽しむ資金がない。
先週は、前から楽しみにしていた新作ゲーム『ドラキュエ』の発売日だったのだ。
どうしても買いたかった俺は、なんとか母を説得し、お小遣い前借りという手段で決着がついた。
――このままだと、遊びに行けない……。
俺は、リビングのソファーで顔色を真っ青にしながら、体育座りをしていた。
すると、リビングの扉が開く音が聞こえた。
「おかえりなさい、香澄」
「ただいまー、お母さん……って、優作どうしたの?」
「それがね……友達と遊びに行くお金が無くて、困っているらしいのよ」
「あぁ~そういうことか」
背中に、哀れな目でこちらを見つめる姉ちゃんの視線を感じる。
「あ、そういうことなら……優作! ちょっと手伝ってよ」
「手伝い……?」
姉ちゃんは、不敵な笑みを浮かべながら、俺を手招きする。
姉ちゃんがこの顔をする時、ろくなことは起きない。
「手伝ってくれたら、お小遣いをあげてもよいんだけど……」
「本当!?」
俺は、「お小遣いをあげても……」の辺りで、餌に食いついた魚の様にヒットした。
姉ちゃんも食いつきの良さに、若干だが身を引いていた。
「まぁ、詳しくは、ご飯を食べたら、私の部屋に来てちょうだい」
「は、はい……ありがとう、姉ちゃん!」
何をされるか分からない……だけど、この姉ちゃんの提案に乗る以外の選択肢は俺には、残されていなかった。
◇
晩御飯のカレーを食べた後、姉ちゃんに部屋に案内された。
姉ちゃんの部屋に入るのは久々だが、部屋は凄く片付いていた。
綺麗好きな姉ちゃんらしい部屋という感じだ。
「それで、手伝いとは何でしょうか」
今の俺は雇われの身……下手に出る。
「優作さ……」
「はい……」
「遊びに行くときに、着る服とかあるの?」
「……!」
どんなお願いをされるかと思っていたら、まさかの服の話だった。
「洋服あるよー、姉ちゃん、俺今も着ているじゃん」
そう答えると、姉ちゃんは呆れた顔を見せ、更に頭を抱えた。
「あんたさ……これは、私の勘だけど、高校で出来た友達と遊びに行くんだよね?」
「まぁ、そうだけど」
「それで、その中に華恋ちゃんもいると……」
「え? なんでそれを?」
「あんたが、あの座り方をして落ち込んでいたのは、華恋ちゃんの引っ越しを知った時にしか見ていないの」
華恋が引っ越した時も、これだけ落ち込んでいたのか。
まったく記憶にないが、姉ちゃんが言うことだ。
きっと、その時も無意識に体育座りでソファーに座っていたのだろう。
――俺は、華恋のことになると、そんなに分かりやすいのか……。
気恥ずかしさを誤魔化すように、俺は少し声を張り上げた。
「そうだけど! それで、洋服と何か関係はあるの?」
「大ありだよ!」
「痛ぇっ!」
姉ちゃんは、俺の額にデコピンを繰り出した。
やはり、姉ちゃんのデコピンは、いつ食らっても痛い……。
「別に、中学までの服で出かけるなとは言わない……。だけど、せっかくなら、学校の雰囲気と違う優作を見せられるチャンスじゃん?」
「ちゃ、チャンス?」
「そう! あんたは、身長も体型も、まぁ顔立ちも悪くないんだから、ちょっと服の系統を変えたり、髪型を変えるだけで、見た目は激変するんだよ」
「なるほど……」
姉ちゃんの言っていることも一理ある。
中学の服も気に入っているものは多い。
しかし、高校生にもなって、いつまでも昔の服をずっと着ているのはどうなのか……とちょっと考えた。
それに、華恋は高校生になって、誰もが憧れるような美少女へと劇的な変化を遂げている。
「だけど、お金が無いんだよ」
「そこは姉ちゃんにまかせて!」
そういうと、姉ちゃんは携帯を取り出し、俺にある画像を見せた。
〈読者モデル募集中! お店の服を着てくれる男女高校生! 待ってます!〉
「姉ちゃん……これは、一体」
「これね、私がバイトしているお店なんだけど……。女性はもちろん私で決まったんだけど、男性が決まっていなくてね……」
「ほう……」
男性は決まっていないのか……それは大変ですね。
……というか、俺は読者モデルじゃないんだが。
それに、しれっと「女性は私で決まった」とか言っていた。
確かに、姉ちゃんはバレーもやっていたから、身長も高くスタイルも良い。
うってつけの人材ではあると思うが……。
「ほう……じゃなくて! 今なら、洋服の上下セット……私のお財布から美容室代と、更に特別給料5000円を提供いたします! 所要時間は2時間ほど、これだけ良い条件ないよ?」
グイグイと姉ちゃんのペースにのまれていく。
確かにありがたい話だけど、本当に俺でよいのだろうか。
「あのー、俺読者モデルじゃないんだけど?」
「あぁーそこは気にしないで! 広告だから大々的に言っているだけで、お店のSNSにしか載せないから!」
「俺が似合うと思うの?」
「優作なら出来る! 絶対にー出来る!」
姉ちゃんの謎の自信……。
これだけ言い切られると、出来るような気がしてくる。
俺が、ちょっと思い詰めていると、姉ちゃんが顔の前まで持ってきていた携帯を下げた。
「優作……あなたも、変われるよ」
さっきの勢いはどこに行ったのか、急に思いつめたような顔に変わった。
「優作がバレーやめてから、心の底から元気がないなと思って……」
「俺は元気だよ? 4月だって、学校1日も休んでいないし」
「体調的なものじゃなくて……。何か、新しい文化とか、趣味に触れて欲しくてさ」
「姉ちゃん……」
姉ちゃんの思いつめた顔。
俺がバレーをやめたのは、自分の意志だ。
だが、姉ちゃんはどこか責任を感じているのだろうか。
「無理言ってごめんね……これ、5000円。これで楽しんで来な」
姉ちゃんは、がっくりと肩を落としながら、部屋を出ようとした。
「わかったよ……」
「え?」
「姉ちゃんの依頼……受けるよ!」
「本当?」
こんなに良い条件はない。
俺も、華恋のように変われるようになるために……。
そして、GWに少しでもあいつをドキッとさせられるように……。
なんていう、俺の個人的な下心は胸の奥に隠しつつ、ここは姉ちゃんの顔を立ててやることにした。
「じゃあ、明日は着せ替え人形ということで、よろしく!」
明日は、長い1日になりそうだ……。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
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