第13話 過去の栄光 その1
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翌日……。
いつもの時間に目覚まし時計が鳴り響いた。
――あ、あと5分……。
昨日の夜は、久々にオンラインゲームをした。
流石に今日はやりすぎないように、日付が変わる前にはやめたわけだが……。
寝ようとすると、華恋の『ファンクラブ』のことを思い出してしまい、なかなか寝付けなかった。
寝なきゃ、寝なきゃと思えば思うほど、寝られなくなるのは、誰でも経験したことがあるだろう。
案の定、俺もそのドツボにはまったのである。
俺は二度寝をしようと目を瞑ったが、起きられる自信がなかったため、渋々と起き上がった。
部屋の扉を開け、階段をのそのそと下りた。
外からは、雨が落ちる音が聞こえ、廊下もいつもより薄暗い。
俺は顔を洗い、ご飯をゆっくりと食べ、学校へ向かう支度を進めた。
今日は昨日よりも10分、家を出るのが早い。
雨も降っているし、足場が悪いかもしれない。
焦って通学するのも疲れるので、いつもより早めに家を出た。
「行ってきまーす」
俺は、傘を差して学校へ向かおうとした。
そして、白原家の前で無意識に足が止まり、玄関の方をチラッと確認した。
しかし、今日は昨日と違い、「ガチャ」という音も、「行ってきまーす」の声も聞こえなかった。
少しだけ胸の奥がチクッとしたのを誤魔化すように、俺は傘の柄を握る手に少しだけ力を込め、再び学校へ歩みを進めた。
◇
俺は寄り道なしで、学校に着き、クラスへ向かった。
今日も人だかりがあるかと覚悟をしたが、昨日よりは少なかった。
恐らく昨日は、話題の可愛い新入生を一目見ようとギャラリーが集まったのだろう。
俺は、自分の席にポツンと座った。
鞄を机横のフックにかけ、1限目の準備をしようとすると……。
「お、おはようございます……緑ヶ丘くん」
「え、あぁ……おはよう……」
話しかけてきたのは、俺の席の左前に座る、確か……〈松永 大和〉くん……だった気がする。
後ろから見ていたけど、とても身長が高い。
バスケとかやってそうな体格をしている。
「松永くん、だよね?」
「そう、松永です! 松永大和! ピッカピカの高校1年生です!」
「い、いや! 高校1年生はわかるよ? 同級生なんだから!」
同い年で、同じクラスメイトに学年を紹介されるというシュールな時間が流れた。
松永くんは、「あっ!」という驚きの表情をしていた。
「それで、松永くん? 俺に何か用事……?」
「あ! そうなんですよ! 入学の時から話したいと思ってたんですが……」
松永くんの目は、キラキラと輝いている。
この目は、数年前にも向けられたことがある。
「緑ヶ丘さんって、中学時代に……」
「おっはよー! 優作! それに……大和!」
突然、俺たちの会話を遮り、背後からの大きな声……。
そして、こいつはまた俺の背中をポンと叩いた。
ちなみに、今回は弱めであった。
「西川! 相変わらず声がでかいよ」
「おはようございます……西川くん」
俺たち2人は、西川に挨拶を返した。
どうやら、西川と松永くんは、顔見知りのようだ。
いや、もうすでに友達……なのか?
だとすると、西川も相変わらずコミュニケーション能力が高い。
周りを見ると、既に友達ができている人たちは何人もいた。
離れて、1人で本を読んでいたり、携帯を見ている人もちらほらいるが、俺はその姿を見ると安心する……というか、密かに強い仲間意識を感じてしまう。
そういえば、一つ疑問点がある。
「西川と松永くんって、喋っていたっけ?」
というか、俺の席の前に座る2人が、喋っている姿を見たことがない。
俺はトイレと昼ごはん以外は、基本この席に座っている。
西川も基本的に落ち着きはないが、休み時間は今流行りのスマホゲームをポチポチとやっていたはず。
話す機会なんて無いはずだ……。
「それはね、大和もバレー部だからだよ! 昨日体育館で初めて話したんだ」
「そ、そうなんです! 同じクラスメイトがバレー部で嬉しかったです」
なるほど、同じ部活だったのか。
それなら辻褄が合う。
「それがね? 大和……凄いんだよ!」
「え? 凄い?」
「そう! 中学の時に、関東大会に行ったチームのキャプテンだったらしいんだ!」
それは凄い。
第一印象の通り、身長も高くて、スポーツがいかにも出来そうな体格をしている。
「い、いえ……私なんて、飾りのキャプテンで、スタメンではなかったので」
松永くんは、ちょっと嬉しそうにニヤっと笑顔をこちらに向けていた。
「す、凄いと言ったら、緑ヶ丘さんの方じゃないですか?」
「……え?」
「だって、中学時代に全国に行ったチームのエースだった人ですよね?」
その言葉を聞いて、俺は顔を引きつらせながら、作り笑いをするのが精一杯であった。
この真っ直ぐな、キラキラとした期待の眼。
今の俺には、それがたまらなく眩しくて、痛かった。
やはり、この子は俺の過去を知っていた。
「そ、そうだね……そんなこともあったね」
「私、ずっと疑問だったんですよ! ここの高校、バレー部あまり強くないじゃないですか? それなのに、合否の発表の日に周りを見渡したら、全国に行った人がここにいるなんて……私憧れだったんですよ!」
机に両手をつき、身を乗り出し、まるでマシンガンのように、会話を続ける松永くん。
「あ、大和……ちょっと落ち着こうか」
「え、あぁ……すいません!」
西川の制止に、松永くんは素直に応じた。
そして、喋りすぎて喉が渇いたのか、ペットボトルのジュースを一口飲んだ。
「そ、それで! 緑ヶ丘さんもバレー部入るんですよね?」
「そ、それは……」
俺がこの高校に来た理由……。
家が近いから、一番自分の学力に見合っていたから……そして、もう一つは……。
「俺はね、バレー部には入らないよ。ごめんね」
――この高校はバレー部が強くなく、失った過去の栄光に向き合わずに済むと思ったからだ。
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