第12話 幼馴染集合! その2
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華恋が駄々をこねて、30分ほどが経過した。
美那子は、弟に「今日、帰り遅くなるからお弁当買って帰るね」と渋々と連絡を入れていた。
当の本人はと言うと……。
「スー……スー……スー……」
美那子の膝枕で横を向きながら、あっという間に寝落ちをしていた。
規則正しい小さな寝息が、静かな部屋に響いている。
――どこまでも自由な子である。
そんな無防備な姿を見せてくれるのは俺たちの前だけだと思うと、少しだけ優越感のようなものを感じてしまう。
俺は再び、ベッドの上に座り、華恋の顔を見た。
――寝顔も可愛い……。
どんなに自由に過ごされても、この寝顔を見ると全てを許したくなってしまう……それぐらい、心が浄化される寝顔である。
それに、距離が近いせいで、シャンプーのようないい香りがふわりと鼻をくすぐってくる。
「華恋……変わってないよね」
美那子は、膝の上で寝ている華恋の頭を撫でている。
今の姿……学校では、2人きりではないとはいえ、男の部屋でぐっすり寝ている姿は想像がつかないだろう。
「人はそんな数日で変わらないでしょ」
俺は華恋の寝顔から目を逸らした。
このままずっと見ていると、本当に……。
「優作は、どっちの華恋が好き?」
「ど、どっちか……」
俺は再び、華恋の寝顔を見た。
変貌前と後の姿……。
答えを聞きたいのか、美那子はずっと俺の方をジッと見ている。
どっちが好きかだなんて、俺には決められなかった。
だけど……。
俺は再び、暗くなった外に視線を移した。
「今の髪型……すごく似合ってると思う……昔は、もうちょっと長かったと思うから……」
今の俺が出来る、精一杯の華恋への褒め言葉であった。
「そ、そっか……」
美那子が、再び華恋の顔を覗くと……。
「あっ!」
「ど、どうした?」
美那子の突然の声に驚いた俺は、彼女の方を見た。
そして美那子は、そっと華恋の顔を指さしていた。
俺は、その指の先にある華恋の顔を見た。
「あ……」
そこには、パッチリと目が開いている華恋の姿があった。
バチリと視線がぶつかる――。
数秒間の、息が止まるような沈黙。
彼女の顔がみるみるうちに耳まで真っ赤に染まっていくのが分かった。
――ま、まさか……今の聞かれたか?
なんてタイミングで、目を覚ますんだ。
すると、華恋はビクッと肩を震わせ、ロボットのようなぎこちない動きでゆっくりと座った。
美那子の膝は、少し赤くなっていた。
しかし、華恋の顔はそれ以上に真っ赤に染まりきっている。
「ご、ごめん……寝ちゃってた」
華恋は、寝落ちしてしまったことを、必死に自然を装って2人に謝った。
しかし、泳ぎまくっている視線と裏返りそうな声が、俺の恥ずかしい本音を残らず聞いていたことを雄弁に物語っていた。
そして、無意識になのか、ボサボサになっている髪を慌てて手櫛で整えた。
「じゃ、じゃあ……今日は、もう帰るね。また、明日ね!」
そう言うと、華恋は立ち上がり、部屋を飛び出した。
ドタドタと階段を下りる音が、俺の部屋まで聞こえてきた。
「ご、ごめんね……実は、華恋が目を覚ましていたこと、気づいてたの」
「は、はぁー?」
――は、はぁ!? 気づいていたの?
俺は、美那子の今日2度目の揶揄いに動揺を隠せず、彼女をジト目で睨みつけていた。
「そ、そんな目で見ないでよ……。まさか褒めると思ってなかったから」
「俺も、何故褒めたのかわからない」
「まぁ、それが優作の本音ってことだよ! 私のイタズラで気づけて良かったね。2人とも最高のリアクションだったよ?」
――いや、都合よく解釈しないでくれ。
美那子は、ずっとニヤニヤを隠し切れずにいた。
俺は、変貌後の華恋に、少しだけ……惚れているのかもしれない。
昔から知っている幼馴染に、今さらそんなことは絶対に認めたくはないが……。
「じゃあ、私もそろそろ帰るね」
「はいはい、とっとと帰ってください!」
「そ、そんな言い方しなくてもいいでしょ?」
俺は、「早く帰れ」といわんばかりに、手でパタパタと美那子を部屋の扉に誘導した。
「あ、それはそうと、『華恋ファンクラブ』のこと、よろしくね」
「あ、そうだったね……」
そうだ、華恋を褒めたことで、肝心なことを忘れていた。
そう言い残し、美那子も階段を下り、家に帰っていった。
明日、学校でどんな顔をして華恋と顔を合わせればいいのか……。
いつも通りに接することが出来るか、不安なのであった。
――い、いや……学校で、華恋と話すことなんて……無いか。
今日も、学校で華恋とは話していないし、明日もきっと話さないだろう。
俺みたいな地味な幼馴染が、周りの目を気にせずに気軽に声をかけられるような存在じゃないからだ。
――今の彼女は、学校では誰もが憧れる美少女なのだから。
俺の部屋で無防備に寝落ちする、あの昔のままの華恋ではないのだ。
そのことに、少し……少しだけ、寂しい気持ちになった。
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