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俺の妻は忍(しのび)ですか?  ―― そして、次に殺される男は俺ですかっ!?  作者: ひの
22、萌

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〜陽の巻〜 薬湯をこぼした後・真夜中

 とろとろとまどろんでいた。

 真夜中に違いない。

 浅い眠りのはざまに、部屋の扉が開く気配があった。

 

 誰かが、そっと部屋に入ってくる気配。

 瞳を閉じていても、暗闇の中に密かに揺らめく行燈の明かりを感じる。

 俺は再び、まどろみの中に半身を沈めた。


 夢と現のはざまで、俺の左手が掬い上げられ、誰かの膝の上に置かれた。


 俺の左手を掬い上げた手は、冷たく冷え切っていた。それだけではなく潤いを失ってガサガサに荒れ、骨ばってとても痩せていた。

 萌の手は、ふっくらとあたたかく柔らかだ。――これは、萌の手ではない。


 ――誰だ……?


 俺は、薄目を開けた。



 胡蝶が、俺の枕元に座っていた。

 胡蝶は、やつれていた。


 いつでもきっちりと整えられていた長い黒髪は、乱れてまとまりを欠いていた。着物は見慣れたものだが、よれて皺になり、くたびれて見える。目の下には、くまができていた。

 よれよれの外見とは裏腹に、胡蝶は無駄のない手つきで、俺の手に巻かれたさらしと和紙を剥がしていく。


 全ての和紙が剥がされた。胡蝶は俺の手を行燈の光にかざし、角度を変えつつ、目を皿のようにして見る。見終わると再び、俺の手を自分の膝の上に戻した。

 

 胡蝶の脇には、大きめの盆が置かれている。その盆から胡蝶が取り上げたのは、針と糸だった。

 胡蝶は針の先を行燈の炎で慎重にあぶっていく。


 ――何を、するつもりだ……?


 俺の眠気が引いていく。


 胡蝶は、くのいちだ。しかも、凄腕の。

 その気になれば、毒針の一刺しで、俺の息の根を止めることだってできるはずだ。



 ――胡蝶は……。

 俺を――。亡き者にしようとしているのだろうか……。


 『胡蝶姉さまを自由にしてあげてくださいませ』昼間の萌の声が蘇る。


 俺が死ねば――。

 ……胡蝶は自由になれる。




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