陰の巻
金創医の治療法が千差万別なら、金創医の腕もピンからキリまでだ。胡鳥は美濃で、大したことのなさそうな傷が、金創医の治療により悪化して、患者が死んだり、手足を失ったりするところを何度も見ている。
数十人も訪れている金創医の、誰が腕利きで信用でき、誰がヤブ医者なのか、胡鳥には判断できかねた。
一週間。一週間あれば、今、門前にいる全ての金創医の過去の実績を調べ上げ、誰が火傷の治療に秀でているのか、間違いのない判断を下す自信がある。
だけど。
火傷は、初期治療が鍵を握る。甲賀では、そう、聞いた。
何日もかけて、彼らの言葉の真偽を検証している余裕はない。
我こそが一番の治療をしてみせると、大声で口々に訴え続ける金創医たち。
――ああ。いったいこの中の、誰の言葉を信じたらいいんだろう……。
門の内側で、胡鳥はこめかみを押さえた。
「胡蝶姉さま」
萌がやってきた。蒼ざめた顔をしている。
「萌。顔色が悪いわ。
あなたは身重なのよ?
座ってなきゃダメじゃないの。転んだらどうするの?」
萌は首を横に振った。
「和颯様が火傷を負われたと聞きました。
萌は、座っていることなどできません」
「いいえ、心配しても同じことよ。
和颯様の火傷は、わたくしが何とかするから、あなたは部屋で――」
「いいえ、胡鳥姉さま。
どうか――和颯様の手当てを、萌に手伝わせてください」
胡鳥ははっとして萌を見た。
萌は、まっすぐな瞳で胡鳥を見つめた。
「萌は、和颯様のお世話を、させていただきたいのです」
萌の目は真剣だった。
それに。萌は――。萌ならば――。
間違いなく、この中の誰よりも、信頼できる……。
胡鳥は目を閉じた。
大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
目をつぶったまま、萌に問いかけた。
「――いいの? できる?」
「はい」
萌はしっかりとした声で応えた。
「……そう――」
ならば……。
胡鳥は目を開いた。萌に笑顔を見せる。
「じゃあ――。和颯様のお世話は、萌にお願いするわ。
そのかわり薬は、わたしの言うとおりに使うのよ――」
萌は顔を輝かせた。
「はいっ!」
腹を、括る。
胡鳥は、集まった金創医を一人残らず追い返すために、門を開いた。




