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俺の妻は忍(しのび)ですか?  ―― そして、次に殺される男は俺ですかっ!?  作者: ひの
22、萌

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陽の巻

 俺は中身が半分以上残った湯呑を持ったまま、ぼんやりとしている。

 薄暗くなり始めた庭の外には一面に雪が積もっていた。鮮やかな緑色の軟膏のついた夜具からは、青臭い独特の匂いがする。

 この匂いは知っている。日陰に生える草だ。切れ込みのある雫のような形をした、赤紫色の縁取りのある葉を持つ。梅雨のころに、白い花が咲く。俺は遠乗りの際に何度も、この草を馬の蹄で踏んづけたことがある。鼻が曲がるような匂いがなかなか取れず、そのたびに閉口したものだ。

 夜具の青臭い香りと、一面に積もった外の雪。それに萌の美しい手が俺の中で繋がりかけて――。

「あっ……!」

 上の空になっていた俺は、湯呑の中身を零してしまった。

 零れた薬湯は、夜具に吸い込まれていく。

 俺は、夜着が濡れないよう、急いで夜具をはねのけた。その拍子に中身の残った湯呑が転がった。


「あ、っちゃぁ……」

 俺は湯呑を拾い上げる。

 幸い、湯呑は欠けてはいない。だが、俺の薬湯は、汚れた上かけが飲み干してしまったようだ。


「ま、いっか」

 俺は上かけを床の上に押しのけ、夜具の敷き布の上に横になった。

 たちまち眠気がやってきた。俺は目を閉じる。


 薬湯、ほとんど飲めなかったな……。

 でもまあ、薬の効き目が弱いようなら、明日もう一度飲みなおせばいい。


 しばらくしてから部屋の扉があき、萌と新しい上かけを抱えた侍女が入ってきた。

 萌は、俺が眠っていると思ったのだろう。黙って俺の上に新しい上かけをかけてくれる。


 俺は薄目をあけた。

「萌……」

「まあ、和颯様。眠っていらっしゃるかと思いました。

 起きていらしたのですか?」

「うん。でも、眠たい」


 萌が俺の横に座る気配がした。

 そっと俺の額に手を添える。きめの細かい、柔らかな、手。

 その手がゆっくりと俺の額から髪の生え際にかけて、軟かく撫でる。


「ああ、気持ちがいいな……」

「和颯様が眠られるまで、萌はこうしております」

「ありがとう、萌」

 これがきっと、幸せということなんだろう。

 そう、これが。きっと――。

 


 俺は緩やかなまどろみに身を任せ、眠りに落ちる。



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