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俺の妻は忍(しのび)ですか?  ―― そして、次に殺される男は俺ですかっ!?  作者: ひの
22、萌

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陽の巻

 一益のことを想像した途端、俺の胸がキリリと締め付けられる。


 いや。胡蝶は俺に向かってはっきりと『一益とは古い知り合いだ』と言っていたじゃないか――。


 だけどやっぱり、それとは別に……。――胡蝶は――。

 俺と別れて、一益と――一緒になりたいのか――?


 萌は――胡蝶の、その想いを、知っていて……?

 萌なら、胡蝶の俺に言えない想いを知っていてもおかしくない。


 それに、そう考えれば――今までの胡蝶の、全ての行動につじつまが合う。



「――お薬を、貼りなおしましょう……?」

 萌が、俺の左手を掬い上げ、さらし布を外していく。


 萌は――優しくて穏やかだ。清らかで美しく、非の打ち所もない。


 俺は――。どうしたいんだろう……。



 萌の優しさと穏やかさに不満がある男など、いるわけがない。


 ――そうであるなら、今のこの状況に満足するべきなのだろう。

 俺は、ずっと萌を大切にし、萌と共に歩んでいくべきなのかもしれない。


 頭では分かっている。

 そうすべきだ。


 そう、すべき、だ。



 なのに……。



 胡蝶――。


 萌の穏やかな微笑みに満たされ癒されている今この瞬間ですら。

 胡蝶を想うと、胸が張り裂けそうだ。


 だけど――。

 俺が胡蝶に対して抱くこの感情は、ただ単に、目の前にあるのに手に入らないもどかしさを、ややこしくこじらせているだけだとしたら――?

 俺のこの誤った執着が、胡蝶も萌も、俺自身すらも縛り付け、身動きを取れなくさせているのだろうか。そうであれば俺は、胡蝶へのこだわりを潔く、手放すべきだ。


 萌が、俺の手に貼られた軟膏つきの和紙を剥がし始める。

 初めに比べるとかなり回復してきたとはいえ、火傷のあとはまだ真っ赤で、新しい水ぶくれが膨らんでいた。和紙を剥がされると冷たい外気が傷口に触れ、ぴりりとした痛みと痺れが走った。


「――萌……」

「なんでしょうか?」


 俺は夜具に横たわったまま右手を伸ばし、萌の腹に触れた。

 ここには――俺の、子供が、宿っている。


「ずっと――俺の(そば)にいてくれるか?」

 萌は慈愛に満ちた目で俺を見下ろした。


「もちろんでございます。

 この命尽きるまで、和颯様のお側にお仕えさせてくださいませ」


 俺は目を閉じた。


 そうだ。

 これがきっと。正しい幸せなんだ――。

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