陽の巻
一益のことを想像した途端、俺の胸がキリリと締め付けられる。
いや。胡蝶は俺に向かってはっきりと『一益とは古い知り合いだ』と言っていたじゃないか――。
だけどやっぱり、それとは別に……。――胡蝶は――。
俺と別れて、一益と――一緒になりたいのか――?
萌は――胡蝶の、その想いを、知っていて……?
萌なら、胡蝶の俺に言えない想いを知っていてもおかしくない。
それに、そう考えれば――今までの胡蝶の、全ての行動につじつまが合う。
「――お薬を、貼りなおしましょう……?」
萌が、俺の左手を掬い上げ、さらし布を外していく。
萌は――優しくて穏やかだ。清らかで美しく、非の打ち所もない。
俺は――。どうしたいんだろう……。
萌の優しさと穏やかさに不満がある男など、いるわけがない。
――そうであるなら、今のこの状況に満足するべきなのだろう。
俺は、ずっと萌を大切にし、萌と共に歩んでいくべきなのかもしれない。
頭では分かっている。
そうすべきだ。
そう、すべき、だ。
なのに……。
胡蝶――。
萌の穏やかな微笑みに満たされ癒されている今この瞬間ですら。
胡蝶を想うと、胸が張り裂けそうだ。
だけど――。
俺が胡蝶に対して抱くこの感情は、ただ単に、目の前にあるのに手に入らないもどかしさを、ややこしくこじらせているだけだとしたら――?
俺のこの誤った執着が、胡蝶も萌も、俺自身すらも縛り付け、身動きを取れなくさせているのだろうか。そうであれば俺は、胡蝶へのこだわりを潔く、手放すべきだ。
萌が、俺の手に貼られた軟膏つきの和紙を剥がし始める。
初めに比べるとかなり回復してきたとはいえ、火傷のあとはまだ真っ赤で、新しい水ぶくれが膨らんでいた。和紙を剥がされると冷たい外気が傷口に触れ、ぴりりとした痛みと痺れが走った。
「――萌……」
「なんでしょうか?」
俺は夜具に横たわったまま右手を伸ばし、萌の腹に触れた。
ここには――俺の、子供が、宿っている。
「ずっと――俺の傍にいてくれるか?」
萌は慈愛に満ちた目で俺を見下ろした。
「もちろんでございます。
この命尽きるまで、和颯様のお側にお仕えさせてくださいませ」
俺は目を閉じた。
そうだ。
これがきっと。正しい幸せなんだ――。




