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俺の妻は忍(しのび)ですか?  ―― そして、次に殺される男は俺ですかっ!?  作者: ひの
22、萌

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陽の巻

 来る日も来る日も、萌は献身的に看病してくれる。

 数日たつと俺は床の上で起き上がれるようになり、食欲も出てきた。

 左手が使えない俺のために、萌はかゆを匙ですくい、俺の口元まで持ってきてくれる。


 萌の腹は少しづつ大きくなり、動くのも大変そうだ。

 「大事な体なのだから、無理しなくていい」と言ったら「和颯様のお側で、看病できるのが幸せなのです」と返された。


 あれから何度も水ぶくれができたが、寝る前に萌の持参した薬湯を呑むと、次の日の朝には魔法のように綺麗に治っている。こんなによく効く薬を、萌はどこで入手したのだろう。薬の名前や入手先を聞いたが、萌は穏やかに微笑むだけで、決して口を割らなかった。


 俺の火傷は、少しづつだが、確実に良くなっている。毎日和紙の交換のたびに嗅ぐ、独特な青臭い薬の匂いには閉口するが、それも仕方がないか。



 一方で、胡蝶は一度も顔を見せにすら来ない。


 ――俺の正妻なのに。

 俺たちは6年も連れ添ったのに。


 萌は、もうすぐ出産する。萌が生んだのが男児なら、胡蝶はもう清州からいなくなるという。その後、胡蝶に変わって俺の正妻になるのは萌だ。

 俺たちの婚姻関係は、もう終わりが見えているのだから、もうどうでもいい、という事だろうか。

 それにしたって、ちょっとは顔くらい見せに来ればいいじゃないか。薄情な奴。



 ある日の午後、俺は思い切って萌に打ち明けることにした。

 俺は夜具に横たわったまま、口を開く。

「萌――聞いてくれ。

 胡蝶は……萌が男児を出産したら、清州を出ると言っているのだが……」


 萌は切れ長の目を驚いたように見開き、息を呑んだ。

「それは……。

 ――初めて、お聞きいたしました」


「……萌にも、話していなかったのか……」


 だが、それなら望みはある。萌は胡蝶を慕っている。なんとか萌から胡蝶に、清州にとどまるように説得してもらおう。


 萌は悲しそうに目を伏せた。

「萌は――。

 胡蝶姉さまと離れるのは、とても寂しいです……」


 俺は勢いづいた。

「そうだよな!

 だったら、萌から胡蝶に――」


「できません!」

 ピシリ、と萌が言った。

 萌が鋭い声を上げるのは珍しい。

 俺は驚いた。


「……どうして……?」


 萌は目を逸らし、小さな声で絞り出すように言った。

「――胡蝶姉さまには。

 胡蝶姉さまの……。幸せが、あるのでは……ないかと……。思うからです……」


 ――それって……どういうこと……?


 萌はみるみるうちに涙を(たた)えた目で、俺を見た。

「和颯様。

 和颯様のお側には、ずっとずっと、萌がおります。

 萌が、和颯様を、精いっぱい、お支え致します。

 なので――。これ以上、胡蝶姉さまを縛らないで差しあげてください……!」


 ――待って。待って。

 それって……。

 俺のせいで、胡蝶が幸せになれていないってこと?


 俺が、胡蝶を、縛っている――?

 そんな――。


 胡蝶は、萌を誰よりも大切にしているし、萌は、胡蝶をこの上なく慕っている。きっと二人の間にはいくつもの、俺の知らない会話があるはずだ。


 萌は――何を知っているんだ……?



 まさか……。

 

 ――一益……?


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