陽の巻
来る日も来る日も、萌は献身的に看病してくれる。
数日たつと俺は床の上で起き上がれるようになり、食欲も出てきた。
左手が使えない俺のために、萌はかゆを匙ですくい、俺の口元まで持ってきてくれる。
萌の腹は少しづつ大きくなり、動くのも大変そうだ。
「大事な体なのだから、無理しなくていい」と言ったら「和颯様のお側で、看病できるのが幸せなのです」と返された。
あれから何度も水ぶくれができたが、寝る前に萌の持参した薬湯を呑むと、次の日の朝には魔法のように綺麗に治っている。こんなによく効く薬を、萌はどこで入手したのだろう。薬の名前や入手先を聞いたが、萌は穏やかに微笑むだけで、決して口を割らなかった。
俺の火傷は、少しづつだが、確実に良くなっている。毎日和紙の交換のたびに嗅ぐ、独特な青臭い薬の匂いには閉口するが、それも仕方がないか。
一方で、胡蝶は一度も顔を見せにすら来ない。
――俺の正妻なのに。
俺たちは6年も連れ添ったのに。
萌は、もうすぐ出産する。萌が生んだのが男児なら、胡蝶はもう清州からいなくなるという。その後、胡蝶に変わって俺の正妻になるのは萌だ。
俺たちの婚姻関係は、もう終わりが見えているのだから、もうどうでもいい、という事だろうか。
それにしたって、ちょっとは顔くらい見せに来ればいいじゃないか。薄情な奴。
ある日の午後、俺は思い切って萌に打ち明けることにした。
俺は夜具に横たわったまま、口を開く。
「萌――聞いてくれ。
胡蝶は……萌が男児を出産したら、清州を出ると言っているのだが……」
萌は切れ長の目を驚いたように見開き、息を呑んだ。
「それは……。
――初めて、お聞きいたしました」
「……萌にも、話していなかったのか……」
だが、それなら望みはある。萌は胡蝶を慕っている。なんとか萌から胡蝶に、清州にとどまるように説得してもらおう。
萌は悲しそうに目を伏せた。
「萌は――。
胡蝶姉さまと離れるのは、とても寂しいです……」
俺は勢いづいた。
「そうだよな!
だったら、萌から胡蝶に――」
「できません!」
ピシリ、と萌が言った。
萌が鋭い声を上げるのは珍しい。
俺は驚いた。
「……どうして……?」
萌は目を逸らし、小さな声で絞り出すように言った。
「――胡蝶姉さまには。
胡蝶姉さまの……。幸せが、あるのでは……ないかと……。思うからです……」
――それって……どういうこと……?
萌はみるみるうちに涙を湛えた目で、俺を見た。
「和颯様。
和颯様のお側には、ずっとずっと、萌がおります。
萌が、和颯様を、精いっぱい、お支え致します。
なので――。これ以上、胡蝶姉さまを縛らないで差しあげてください……!」
――待って。待って。
それって……。
俺のせいで、胡蝶が幸せになれていないってこと?
俺が、胡蝶を、縛っている――?
そんな――。
胡蝶は、萌を誰よりも大切にしているし、萌は、胡蝶をこの上なく慕っている。きっと二人の間にはいくつもの、俺の知らない会話があるはずだ。
萌は――何を知っているんだ……?
まさか……。
――一益……?




