陽の巻
再び目覚めた時、萌は同じ場所にいた。
着物が変わっている。日が変わったのだろうか。
俺は萌を見上げた。
「俺は――どのくらい寝ていた?」
「丸二日です。
熱が下がらず、ずっとうわごとをおっしゃっていて――。
萌はとても心配致しました。ですが――」
萌は俺の額に手を乗せ、ふわりとほほ笑んだ。
「熱は――ずいぶんと下がったようです。
お顔の色も良く、安心いたしました」
そう、か……。
萌は穏やかに微笑みながら、あれこれと世話を焼いてくれる。
だけど。
萌の口からは、胡蝶の話は出てこない。
――胡蝶は、俺を心配してくれていないのだろうか。
萌が尋ねた。
「おかゆをお召し上がりになりますか?」
「――いや……今は食べたくない……」
「――そうですか。
では、お薬を貼りなおしましょう」
萌に促され、俺は左手を差し出した。
萌は俺の左手に巻かれたさらしを、そっと巻き取っていく。
「――青臭い……」
この匂いは、嫌いだ。
「お薬の匂いです。ご辛抱ください」
さらしの下から現れた俺の手には、たくさんの和紙が貼られている。
和紙の上に軟膏を塗り、その和紙を手に張り付けていたようだ。
萌は、俺の手から慎重に和紙を剥がした。
全ての和紙を剥がし終えた萌の、顔色が曇った。
「――どうした?」
「――火傷をしたところが……大きな水ぶくれができていらっしゃいます」
「それは――悪いのか?」
「ええ。水ぶくれが破裂すると、非常に良くないそうです。
ですが、ご安心ください。後ほど別のお薬をお持ちいたします。明日の朝には直るでしょう」
「そうか――」
萌が、医学にまで通じていたとは知らなかった。
「ありがとう。萌」
萌は、にっこりとほほ笑んで、俺の反対側を向いた。
「――新しいお薬を貼りますね」
萌の脇には緑色のひどい匂いのする軟膏が塗られた和紙が何枚も用意されていて、萌はそれを一枚づつ手に取り、俺の手にそっと乗せていく。
ひりつくような痛みが、少し和らいだ。
「ああ――気持ちがいい」
萌はとろけるような笑みを浮かべた。
「それは、良かったです」
和紙に乗せられた軟膏を貼り、さらしの布で手を巻き終えると、萌は立ち上がった。
「飲み薬をお持ちいたします。
用意するのに、少し時間がかかります。しばらく、お待ちくださいませ」




