陽の巻
目を覚ました時、俺は部屋に寝かされていた。
枕元では、萌が正座していて、やや心配そうな顔をしながら、静かに俺を下ろしていた。
俺が目を開くと、そのまま萌と視線が合った。萌は柔らかく微笑んだ。
さっきまで俺を支配していた切迫感が、溶けるように消えていく。
萌が穏やかに問いかけた。
「お加減はいかがですか?」
「ああ――。
大丈夫だ……」
萌は今日も、綺麗に身だしなみを整えている。華美ではないが清楚な装い。
萌の声は、まるで子守唄のようだ。
「事情は――おおむね聞いております。
和颯様は手に、深い火傷を負われました。
しばらくはお屋敷で、静養なさるのがよろしいでしょう」
「ああ。
金創医を、呼んでくれ」
俺がそう言うと、萌はわずかに眉根を寄せた。
「金創医は――。
十人以上もお屋敷に押しかけてきたのですが……。
胡蝶姉さまがすべて、追い払ってしまわれました」
金創医は、刀傷や矢傷など、外相専門の医者だ。戦の際には大活躍するし、火傷の治療も行う。
それぞれの医者が秘伝の薬と治療法を持っていて、値段も治療法も千差万別。
「えっと――胡蝶が金創医を、追い払った、と言ったか……?」
「……はい」
萌は微妙に、目をそらしている。
俺は食い下がった。
「――その時の様子を聞かせてくれ」
萌は言いにくそうに口を開いた。
「胡蝶姉さまは――。
『和颯様の火傷は、和颯様の愚かさにより自ら負ったもの。すなわち身から出た錆です。したがって、自力で直すのが道理でしょう。
皆様のお力は借り致しません。
どうぞお引き取りおください』と……」
俺の胸が、ちりちりと焼け焦げる。
――胡蝶……。
確かに、いくら佐助の狡さに腹が立っただからといって、わざわざ俺自身が、あんなに赤くなるまで焼いた鉄を持つことはなかったかもしれない。俺だって、まさかここまで大ごとになるとは思わなかったんだ。そういう意味では俺の考えが浅はかだったと言われるのは仕方がない。
でも……。
結果としてひどい火傷と傷は負うことになったけれど、俺には俺の正義があったんだ。
それを聞きもしないで、金創医まで追い返すなんて。
――そこまでしなくてもいいじゃないか……。
萌が気分を変えるように明るい声を出した。
「ですが、和颯様の火傷には、萌がお薬を貼らせていただきました。
ですから、ご安心してお休みください」
萌がにこやかに、俺の額に濡れた手拭いを乗せる。
ああ、冷たくて、気持ちがいいな……。
そうだ。初めて出会った頃からずっと。
萌はいつも、俺を癒してくれる。
俺は目を閉じる。たちまち滑り落ちるように眠りについた。




