陽の巻
佐助と仲間たちは、俺が来たことでますます調子に乗り、もうすでに勝訴したかのような余裕の表情だ。
―――な、な、な、な………!!
なんだと――っ!!?
許せん!
本当に、許せん!
佐助も、裁判所も、佐助と一緒になって勝訴を信じ、俺に媚を売ってくる奴らも――!
許せん!!!!
俺は!
弱い者いじめをする奴が大嫌いだ!!
しかも噓つきは、もっと嫌いだ!!
動かぬ証拠があるのに、自分の保身のため、事実や正義を捻じ曲げようとする、その根性には虫唾が走る。
しかも! 俺が! この俺が!
あの忌々しい奴らの味方だと思われている!!
とんでもなく不快で! 不愉快で! 吐き気がする!!
俺の喉から、地を這うような声が響いた。
「――なるほど。そういうことか……。
事情は分かった」
俺はそこにいる全員をゆっくりと見まわした。
裁判官が息を呑み、縮み上がったのが分かった。
腹の底から声が出た。
「教えてくれ。
火起請を行ったとき、鉄はどのように焼いたのだ?
もう一度俺の目の前で、その時と同じように焼いて見せてみるがいい」
火起請の執行人が火の中に鉄を入れ、よく焼いた。
鉄は熱を帯び、真っ赤になった。
なるほど。佐助が触ることもできず、一瞬で手を離したわけだ。
「このように、焼きました」
俺は全員を見渡した。
「皆、良く聞け。
俺が甚兵衛の代わりに鉄を持つ。
俺が皆の前できちんと鉄を運んだら、佐助を必ず成敗しなければならないからな。
全員、目をしっかり見開いて、よく見るがいい――っ!」
俺は左手を出す。執行人に、ここに鉄を乗せるよう、促した。
ためらう執行人。俺は早くしろ、と左手を突き出した。
俺は鷹狩りの帰りだったので、手には布製の手袋をはめている。その手袋の上に、真っ赤に焼けた鉄が乗せられた。
じゅううぅぅぅ、と音がして、またたく間に手袋が黒く焼け焦げた。手袋が焼け縮れて穴が空き、手の平の一部が直接鉄に触れる。肌がぴたりと鉄に張り付く感じがした。
熱い、というより、痛い。
全員が凍り付いたようになって俺を見つめている。
俺は。男で。
皆のボスだ。
支配地域の治安維持は、俺にかかっている。
佐助がここまで大いにゴネたのも、裁判官が佐助の言い分に流されているのも。
元を正せば、皆が俺を、己の利益のためなら事実を捻じ曲げても良いと考えている男だと思っているから、だ。
俺が皆に誤解されているとしたら、それは、俺の、責任だ。
だが、これからはそうはいかせないぞ。
俺がいかに真実の前に公平であるかを、ここにいる全員にしっかりと知らしめる必要がある。
だから。絶対にここで、鉄を落とすわけにはいかないんだ。
手袋が焦げる匂いに、肉の焼ける匂いが混じった。俺の手の肉が焼けている。
だけど。世の中には、何が何でも絶対に負けられない瞬間がある。
間違いない。それが、今だ。
俺は意識を、2メートルほど前にある、棚の上に集中させた。
俺は、足を踏み出した。一歩。二歩。――三歩。
棚は目の前にある。
佐助も、甚兵衛も、裁判官も、取り巻き立ちも、目を飛び出さんばかりに見開き、口をあんぐりと開けて、瞬きもせずに俺を見ている。
――そうだ。しっかりと見ておけ。
これが! 織口和颯だ。




