陽の巻
「どうしてこんなところで大騒ぎしているんだ?
何があったのか、説明しろ」
皆が一斉に口を引開いた。
「甚兵衛の証言は嘘っぱちだ!」
「こっちには、左介の刀の鞘があるんだぞ!」
「そんなものが証拠になるか!」
「佐助は鉄を落としただろう!」
「たまたまだ! こっちは恒興さまの家臣だぞ!」
「そうだそうだ! 和颯様を目の前にして、よくそんなことが言えるな!?」
――ん!?
池田恒興は、俺の乳兄弟だ。俺の乳母の息子。生まれた時から一緒に育ってきた、血のつながらない兄弟みたいなもので、何でも話せる大切な家臣だ。むしろ、友達に近い。
だけど――。
話が読めないぞ……。
俺は、こめかみを押さえた。
「――もう少し、分かるように話してくれ」
彼らの話をまとめると、こうだ。
佐助という男がいた。別の村には、甚兵衛という男がいた。2人は知り合いだった。
佐助は、甚兵衛の留守中、甚兵衛の家に、泥棒に入った。
留守を守っていた甚兵衛の妻が下男と共に応戦。佐助が泥棒に入った証拠として、佐助の刀の鞘を奪い取った。
普通なら佐助が罪を認め、罪を償って、終わりだ。
ところが、佐助は罪を認めなかった。佐助は恒興が治める村の庄屋。恒興の権勢をかさにきて、しらばっくれた。
だが、甚兵衛の手元には、佐助の鞘がある。これは佐助が犯人である事を示す、動かぬ証拠だ。
甚兵衛と妻は裁判所に訴え出た。
ところが裁判所でも、恒興の威光を気にしている。
すんなりと有罪判決を出すことはなかった。こんなにはっきりとした証拠があるのに、だ。
佐助は仲間を引き連れ、ゴネにゴネた。罪を認めてしまえば、正当な方法で償わなければならない。
恒興に忖度した裁判官は自ら判決を下すことを放棄し『火起請で決めることにする』と言い渡した。
火起請とは、神の前で行われる、神聖な裁判だ。
被告と原告が、それぞれ、赤く熱した鉄を持つ。
鉄は熱い。その鉄を先に落とした方がウソつき、と判定する。
神前で火起請を行った結果、佐助はあまりの熱さに、鉄を持つことすらできず、一瞬で地面に落としてしまった。
つまり、神前の儀式でも、佐助が偽証していることが証明されたということだ。
ところがこの期に及んでも、佐助は罪を認めない。
裁判所も、ここまできても、恒興の威光を気にして、正しい判決を言い渡せない。
甚兵衛と妻は納得できず、必死に訴えているが、佐助の村は恒興の支配下なので、勢いがある。佐助が武装した仲間を引き連れ、武力に訴えてこのまま逃げ切るべく騒いでいる、という事らしい。




