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俺の妻は忍(しのび)ですか?  ―― そして、次に殺される男は俺ですかっ!?  作者: ひの
22、萌

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~陽の巻~

「胡蝶でございます。萌を連れてまいりました」

俺の髪を結い直す貞じいの気配が、ぴりりと引き締まった。貞じいは素早く髪を結い上げ、立ち上がった。


「入れ」

 音もなく、扉が開く。

 一瞬、軽いめまいをおぼえた。

 すぐにそれが、二人の着物のせいだと気付く。

 胡蝶が身に着けているのは、普段身に着けない薄黄緑の着物。萌が身に着けているのは、いつも胡蝶が着ている臙脂色の着物だった。一瞬、2人が入れ替わったような錯覚に、俺の脳が混乱する。



 胡蝶の所作はいつも美しい。

 扉を開けて萌を招き入れ、俺の前に座るように促す。自分は扉の脇で手をついて頭を下げた。


「先ほどお話しした件です。

 わたくしは席を外しますので――。

 萌の、話を――よく。お聞きくださいませ。

 そして、ご決断を」


 2人の後ろから、氷の上をすべるように一益が現れた。

 手に香炉を持っている。

 あの香炉は見たことがある。たしか胡蝶の――。

 ――どうして、一益が胡蝶の香炉を持っているんだ?


 一益は、俺の斜め後ろに香炉を置いた。

 俺は、立ち上る煙をまともに吸い込んだ。ふわりと体が浮き上がり、目の前がくらくらと揺らめくような感覚に襲われる。


 萌の着物を着た胡蝶が、切ない視線を床に落とす。

 俺はもどかしい気持ちでいっぱいになり、思わず膝立ちになった。


「待て! 胡蝶!

 行かないでくれ!」


 体の芯がうずく。

 狂おしいほどの衝動に、身がよじれそうになる。

 胡蝶。胡蝶。胡蝶。

 どうしても今すぐに、胡蝶に触れたくてたまらない。

 抱きしめて、頬に触れて、瞼にくちづけをして、それで――。


 胡蝶は哀しそうに俺を見た。

「――後ほど、参ります。

 萌とのお話が終わりましたら。その後で」


 胡蝶が部屋の外に出た。一益と貞じいが後に続く。最後にもう一度振り返りそうになる胡蝶の背中を、貞じいがそっと押し出した。

 

 俺と萌だけを部屋に残し、扉が、閉まった。

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