~陰の巻~ 萌の部屋
「――入るわよ」
薄化粧を施した萌は、とても美しかった。
胡鳥が部屋に入ると、蔦を先頭にして萌の侍女たちが、さっと胡鳥に頭を下げた。
「胡鳥姉さま――」
萌がこちらを向く。
「萌、とてもきれいよ」
「――うまく、やれるでしょうか」
「2人で何度も練習したでしょう?
萌なら大丈夫。胡鳥姉さまが保証するわ」
「ですが――萌はとても心配で……」
胡鳥は、はたと気づく。
「……蔦、他の色の着物はないの?」
萌は薄い青緑色の着物を着ている。
「――他の色、と仰いますと……?」
「街に出ると和颯様はよく、臙脂色の着物を目で追っているわ。
茜色や小豆色のものに目を止められることも多い。
――きっと、深い赤色がお好きなのね。
そんな色の着物はあるかしら?」
蔦が、顔を曇らせた。
「――あいにく……萌さまはそのような着物はお持ちではなく――」
「そう……。まあ、良いでしょう。
その青緑の着物は萌によく似合っているわ。このまま行きましょう」
「胡鳥姉さま」
萌が声を上げた。
「今胡鳥姉さまがお召しになっているその着物が、まさに臙脂色では?」
「――ああ……。
これ、ね。
そうね。確かに臙脂色だけど。
これはわたくしの普段着だから――」
「どうか、それを萌にお貸しください」
「でも――」
「萌には、それが必要です。
理由は説明できませんが、はっきりと分かります」
「……そう」
萌は時々、鋭い勘を働かせることがある。
「――……萌がそう言うなら……。――貸すわ」
胡鳥は着物を脱いだ。蔦が素早く臙脂色の着物を受け取り、萌を屏風の奥へと連れていく。肌襦袢だけになった胡鳥の肩に、薄黄緑の着物が掛けられた。
胡鳥は手早く帯を結び、着物を直す。
侍女たちの手を借り、臙脂色の着物の着つけを終えた萌が出てきた。
胡鳥は萌を見た。
「――準備は良いかしら?」
萌はしっかりと頷いた。
「はい、胡鳥姉さま。お連れくださいませ」




