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俺の妻は忍(しのび)ですか?  ―― そして、次に殺される男は俺ですかっ!?  作者: ひの
22、萌

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~陽の巻~

「おっ! (うなぎ)じゃないか!」

 大好物だぞ!


 胡蝶がにっこりと笑った。

「犬吉が川の横を通ったら、ちょうど鰻を捕まえているところだったそうです。

 和颯様の大好物なので、買ってきてもらいました」

 うんうん、そうか。

 

 俺は鰻を頬張った。

 うまいっ!


 俺はまじまじと胡蝶を見る。

「――ところで胡蝶は、どこか怪我でもしたのか?」

「え? なぜです?」

 

「今日の胡蝶の笑顔は――。

 なんだか、痛みをこらえているように見える」


 一瞬、胡蝶の顔に、泣き出す寸前の表情がよぎったように思った。

 気のせいだろうか。

 胡蝶は困った顔で微笑んだ。


「実は、悩んでいることがあって……。

 萌の結婚について――折り入って、ご相談したいことがあるのです」

 ――なにっ! それは一大事だ。


「――準備の資金が足りないなら、何とかするぞ……?」

「そうではなくて――」

 胡蝶は困ったように俺を見た。


 一益が、何か飲み物の入った、小さな器を手渡した。

 俺は中身も見ずに、一息に飲み干した。


「萌には想い人がいたようなのです」

 俺は激しくせき込んだ。

 ――何だって!?


「なっ――!

 相手は誰だ!?」


 萌は結婚に消極的だったから、まだ男に興味がないのかと……。

 ――真逆だった!!


 義銀さまほどの相手との結婚をためらうほどに、想い焦がれる相手が萌にいたなんて、少しも気づかなかった!

 あ……危ないところだった……!

 義銀さまからの正式な求婚の使者がたてられてからでは、とても断れないところだったぞ。


「わたくしの口からは申し上げられません。

 ですが、萌が想う相手がいるのであれば、その御方のお側にいられるようにしてあげるのが、萌の幸せだと思うのです」

「もちろんだ!

 萌の幸せが一番だ。

 義銀さまには俺から丁寧に辞退の申し出をしておく。

 ところで――一益、これは何だ?」

 俺は空になった器を持ち上げた。

 これを呑んだとたん、体が芯から熱くなっていくようだ。


「マムシ酒だ」

 一益は興味なさそうに答える。

「不味い」

「滋養強壮に効果がある。文句を言わずに飲んでおけ」


「じゃあ、食事も終わったから、今からここに萌を呼んで話を――」

「和颯様」

 貞じいが割り込んだ。

「先に湯あみを済ませてしまいましょう。ちょうど風呂の準備ができたようです」

 一益が頷いた。

「萌の話は、寝る前に聞いてやればいい」


「え? でも、今食べたばっかりだし、風呂の前に――」

「さっぱりした方が頭も冴えるでしょう」

「ついでに髪も結い直しておけ」

「新しい夜着を出しておきます」

「隣の部屋に夜具も用意しておいてやるから」

 ――え? え? それって、必要ある?


 胡蝶が立ち上がった。

「では後ほど寝室に萌を連れていきます」

「待て、胡蝶!」

 俺はとっさに胡蝶の手を握る。

 

 胡蝶は苦しそうに俺を見下ろした。

「――なんです?」

 やっぱり今日の胡蝶は、いつもと違う。何かに耐え忍んでいるみたいだ。

 だけど、いったいどうすれば、胡蝶の苦しみを取り除くことができるのか、俺には見当もつかない。


 めずらしく、貞じいまでが痛みに耐えるような顔をして、胡蝶と俺を代わりばんこに見ている。その口が、何か言おうと開きかけ――。

 

「――いや。……なんでもない……」


 俺はおずおずと、胡蝶の手を離した。

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