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俺の妻は忍(しのび)ですか?  ―― そして、次に殺される男は俺ですかっ!?  作者: ひの
22、萌

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陰の巻

 ――ごめんね、カワセミ。使わせてもらうわよ。


「和颯様はこの傷の存在を知らない。

 滝川一益さまはこの傷について知っていて――しかも、何度も見たことがあるわ。

 意味は――言う必要はないわね?」


 萌は泣いている。


「嘘です!

 萌は信じません!」


「信じなくてもいいわ。

 でも、それが真実よ」


「嘘だと言ってください!」


 胡鳥は自分の脱いだ着物を手早く身に着けた。


「わたくしは嘘はついていない。

 ――一益さまの心臓に誓うわ」


 萌が唇を震わせた。


 

 胡鳥は萌の着物を拾い上げ、丁寧に着付ける。


「本当のことよ。

 わたくしは今まで、何度も和颯様と離縁しようとしているの。いまだに成功はしていないけれど。試みてはいるの。


 一益さまのことは……。

 あなたから、和颯さまに伝えてもらっても構わないのよ………。――ああ、でも、一益さまが困らないように配慮はしてね……。」


「そんな――。

 和颯兄さまが――。

 かわいそうです……」


「そうね。

 かわいそうな和颯様。哀れで、哀しい。

 事実上織口家の当主で、義銀さまの信頼も厚いのに、このままでは跡継ぎも生まれない。

 ……みんな、困ってるわ。


 わたしたちはずっと、和颯様のお相手を探している。

 なのに、ぴったりの相手が見つからないの。


 ――ねえ、萌……。

 ……。 

 …………。

 どこかに……。かわいそうな和颯様を慰められる、良い人はいないかしら……?」


「胡蝶姉さま――」

 萌が膝をつき、真っ赤になった目から、涙をこぼしながら、胡鳥を見上げた。


「萌は――。

 萌は、萌は、萌は――。

 ずっとずっと幼い時から。

 ずっと、和颯兄さまが好きでした――!」


 胡鳥は萌の髪をなでた。

「そうだったのね――。

 ――知らなかったわ」

 

 萌は泣きじゃくった。

「萌は――。

 胡鳥姉さまは和颯兄さまのことを愛していらっしゃるとばかり――。

 萌は、和颯兄さまが好きでしたが、胡鳥姉さまの事も、この世で一番大好きで。

 だから――。

 わたくしの想いを口にしたら、胡鳥姉さまが、苦しまれると思って――。

 どうしていいか分からずに――とても、辛くて――苦しい思いをいたしました」


 胡鳥は萌を抱きしめた。

「そうだったのね。

 気付かなくてごめんなさいね」


 萌は泣きじゃくっている。

 自分も。

 喉が――つまりそう。

 だけど。


 わたしは……。


 ……。

 人を騙すのは、得意なの――。


「――ねえ、萌……。

 …………。

 わたくしのことは――きにしなくて、いいのよ……。」


 胡鳥は萌の髪に頬を寄せる。


「胡鳥姉さまも、萌が、この世で一番大好きよ。

 胡鳥姉さまが協力してあげる。


 萌なら、きっと和颯様を幸せにできるわ。


 わたくしは――和颯様には……ふさわしくなかったけれど、

 和颯様なら、きっと、萌を幸せにしてくれる」


 ――たとえ世界中探したって、彼以上の人なんていないと、自信をもって断言できるわ。


「――ねえ。憶えていて。

 わたくしは――あなたに隠し事はしたけれど……。

 わたくしは何があっても、萌にだけは、幸せになってもらいたいの。

 できれば、和颯様にも、ね。


 萌の想いは、必ず成就させてあげるから。

 萌は、胡鳥姉さまの言うとおりにするのよ――」



 それに――。わたしは……。

 嘘は、言わなかった。

 

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