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俺の妻は忍(しのび)ですか?  ―― そして、次に殺される男は俺ですかっ!?  作者: ひの
22、萌

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~陰の巻~ 湯殿

「萌は、胡鳥姉さまとお風呂に入るのは、初めてです!」


 嬉しそうに顔をほころばせ、萌は着替えの入った包みを床に置いた。

 扉を隔てた奥にある蒸し風呂はちょうど入り時で、もうもうと湯気が立っている。


「それに、萌は、侍女の助けなくお風呂に入るのも初めてです」

「困ったことがあれば、何でも言ってちょうだい」


「はいっ。冒険のようで、楽しいですね」

 萌は笑った。


「萌は。

 小さいころから何度も、胡鳥姉さまと一緒にお風呂に入りたいと申し上げましたのに。今まで一度もご一緒していただけませんでした」


「――ええ。そうだったわね」


「胡鳥姉さまは、人前でお着換えされることもなかったので、萌は、胡鳥姉さまは、人に肌を見られるのがお嫌いなのだろうと思っておりました」


「ええ、その通りよ。

 萌は鋭いのね」


 萌はするすると着物を脱ぐ。

 白くふっくらとした美しい肌が現れた。


 萌が不思議そうに胡鳥を見る。

「それなのに、今日はなぜ、萌と入ってくださるのですか?」


 胡鳥は、自分の着替えの入った包みを静かに床に置いた。

「――今日は萌に、ひとつだけ、わたくしの秘密を、教えようと思ったの」


「ひみつ、でございますか?」

「――ええ」


 萌は悲しそうな顔をした。

「――では……。

 胡鳥姉さまは今まで、萌に嘘をつかれていらっしゃったのですか?」


「いいえ。

 わたくしは、萌に、嘘はついていないわ。

 ひとつも、よ。


 ただ――……。

 話していないことも、あるの……」


 胡鳥は萌の目の前で、自分の着物の帯をほどき始める。

 

 胡鳥はするり、と着物を脱ぎ落した。


「――っ!!」

 萌が両手で自分の口を覆った。目は、胡鳥の胸元に釘付けになっている。


「――胡鳥姉さま!!

 その――傷は――!?」


「……憶えてないの。

 ずっと昔に、できた傷よ」


 胡鳥は指先でそっと傷に触れる。

 この部屋には、風呂の湯気が充満してはいるが、醜い黒い蛇がのたうち回ったようなこの傷は、きっと萌にもはっきりと見えているはずだ。


「もう――痛くも、ないの……」


「そんな――知りませんでした……」

 萌の肩が小さく震え、目にはうっすらと涙が浮かんでいる。


「ええ。誰にも言っていないから」

 胡鳥は萌の目を見て、微笑んで見せる。


「それでも――和颯兄さまは、ご存じなのですよね?」


「――いいえ」

 胡鳥は顔の筋力だけで笑顔を保持した。

 なるべく悪い女に見えるように。


「和颯様はご存じないのよ。

 私と和颯様は、結婚して6年も経つのに、子供ができない――。

 萌は、おかしいと思わなかった?」


「そんな!」

 萌が泣き出しそうな目で胡鳥を見つめた。


「じゃあ、和颯兄さまは――」


 胸がじくじくと痛む。

 胡鳥は痛みに耐えて微笑んだ。

 耐えろ。

 萌の、ため、だ。

 それに。嘘は。言っていない。


「わたくしの、この傷のことを知っているのは、ほんの一握りの人間だけなの。

 今は亡き、父・斎藤道三。

 ずっと昔に死んだ、各務野。

 それから、もう一人――」


 胡鳥は萌の耳元に唇を寄せて、小さく、だがはっきりと囁いた。


「滝川一益さま」


「胡鳥姉さまっ!!?」

 萌がほとんど悲鳴に近い声を上げた。

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