表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の妻は忍(しのび)ですか?  ―― そして、次に殺される男は俺ですかっ!?  作者: ひの
22、萌

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
295/322

陰の巻

「ああああっっっ! もうっ!

 どうしてそうなるのよ!?」

 萌の想い人が既婚者だったとは。


 胡鳥は床を叩いた。

 蔦のせいではない。

 八つ当たりだ、ということは分かっている。


 落ち着け。

 落ち着け。

 心を、しずめて――。


 胡鳥はつぶやいた。

「………好きになってしまったものは、仕方がないわ……」

 これはもう、理屈では、ないのだから。


 ただ、今後どうするか、というのは別問題だ。


「夫婦仲は、良いのかしら――。

 ………いいえ、答えなくていいわ。

 そんなの、関係ないもの。

 ただ、萌は――。

 萌が、側室なんて――!

 わたくしは――萌に……」


 その男を、離婚させる? 萌のために?

 萌の幸せのために、想い人の妻が不幸になったとして、萌はそれで幸せになれるだろうか。

 そもそも、新しい妻と結婚するために、古い妻と離婚するような男が、萌を幸せにできるのか?

 でも、想い人がいるのに他の男に嫁がせるのは酷だ。

 萌は自害するというほどに追い詰められている。

 自害は何としても阻止するとして、出家して尼になるくらいなら、側室のほうが良いかもしれない。

 いいえ、ちょっと待って。

 萌が側室――!? ありえない。

 萌は守護の正妻にと乞われているのに。側室なんて。

 

 どうしよう。混乱する。


 胡鳥はこめかみを押さえて、平伏する蔦を見下ろした。

 本日何度目かの、同じ質問を口に出す。

「――で、相手は誰よ?」

「……」

 蔦は平伏している。


「ああああっ! もうっ!!

 まだ言わないつもりなのね!!

 何しに来たのよ!!」


 胡鳥は再び床を叩いた。

 もう、発狂しそうだ。


 蔦は平伏したまま動かない。


 ――でも。

 候補者はかなり絞られたはず。

 萌が兵士たちに差し入れを持ってくるようになったのは、稲生の合戦よりも前だった。合戦の後も顔を出しているのだから、萌の想い人は、稲生の合戦の前から和颯様に仕えていて、稲生の合戦で戦死しなかった者。しかも既婚者だ。


 ――森可成、だろうか。合戦では必ず手柄を上げてくるし、人柄もいい。和颯様の信頼も厚い。ついでに顔もいい。

 すでに結婚していて、長男も生まれているけれど。萌が可成の側室に――? なしじゃない、の、か――?


 前田利家? 前田家の三男で、家柄は悪くない。武勇に優れ、情に厚い男だ。

 だけどとにかく愛妻家で、まつという名の妻をとても大切にしている。

 萌が利家の側室に――?

 いや……。それは……無理だ……。


 はっ! 

 まさか、カワセミ!? 柴田勝家の妹と結婚している。萌とは、年の差がだいぶあるが――。

 彼になら、萌を任せてもいいような気もするけれど――。

 萌と、カワセミが、結婚する――?

 本当に!?


 ――。


 ……いいえ。

 相手は、カワセミじゃない。

 胡鳥は頭を振った。



 ――萌が好きになるのは、もっと違うタイプだ……。


 

 萌は。

 おっとりしていて優しいけれど、相手の本質を見抜く、確かな目を持っている。

 萌が誰かを愛するならば、それはきっと、身分とか、武術とか、金銭の豊かさとか、外見とか、そういうものとは無関係なはずだ。


 萌が誰かを心から愛したならば、その人は。

 きっと穏やかで思いやりがあり、寛大な心を持っているはずだ。高潔で、崇高な理想に向かって生き抜くための高い志も。しかも努力をいとわず、誰かのために一生懸命になれる人のはず。

 それでいて、萌と同じように、目の前の相手を、相手の身分にかかわらず、一人の人間として、心から愛することができるひと。

 さらに自分の信念を貫く為には、逆境の中、己の全てを懸けて挑む強さも持っている。


 強く優しくあたたたかい。

 そんな人は、あの中に――。



「――あ……」


 ―――まさか……



 胡鳥は、蔦を見おろす。



 ――蔦は、平伏していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ