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俺の妻は忍(しのび)ですか?  ―― そして、次に殺される男は俺ですかっ!?  作者: ひの
22、萌

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陰の巻

「萌さまは、自害なさるか、さもなくば、出家を――」


「自害って――どういうことよ!?」

 縁談の相手は、尾張の守護だ。

 萌とは年齢もぴったり。

 義銀さまなら、胡鳥も面識がある。窮地に陥っても誇りを捨てない、強い心を持っていた。芯があり頼りになる、立派な青年だと感じた。人柄も悪くない。


 さすがの胡鳥でも、分かった。

「……萌には既に、想い人がいるのね……」

 蔦は平伏している。


「もう!!

 そうならそうと――。

 どうしてもっと早く言わないのよっ!?」


 まったくもって情けない。

 蔦は胡鳥を嫌っていたが、(あるじ)のためなら私情を捨てられる女だと思っていた。

 まさか、自分への憎しみのために萌の想いを代弁する仕事を、後回しにするとは。


「何のために、あなたがついているの!?」


 蔦は平伏している。


 ――まあいい。

 萌に想い人がいるのなら、最優先でその縁談を進めるまでだ。

 確かに、義銀との縁談を断るなら、これがギリギリのタイミングではある。

 正式な使者を仕立てられてから断っては、角が立つ。


 胡鳥はため息をついた。


「……で。

 相手は誰なの?」


「――申し上げられません」

「はああああああぁぁぁぁぁっ!!?」

 思わず声を荒げてしまう。


「ふざけないで!」

「………」

 蔦は平伏している。


「まどろっこしい駆け引きは嫌いなの!

 分かっているでしょう!?」

「………」

 蔦は平伏している。

 蔦は胡鳥を嫌悪しているが、侍女としては有能だ。胡鳥のことは、よく理解もしているはずだ。


「ああっ……もうっ!」

 ちらりと蔦を見下ろす。

 蔦はぴくりとも動かない。


 これ以上は言えない、ということか。

 全くめんどくさい。

 胡鳥は大げさにため息をついて、考えを巡らせた。


「……。

 …………。

 そういえば。

 ――最近、萌はよく、和颯さまと兵士の訓練に、顔を出していたわね」


 蔦が先ほどより深く頭を下げた。

 正解、という事か。


 確かに、萌が差し入れを持っていくようになった理由は不明で、唐突といえば唐突だった。

 想い人に会いに行くため、と考えれば納得がいく。


「だったら、こっそり教えてくれればいいでしょう!?

 どうして教えてくれなかったのよ!?」


 蔦は平伏している。


 胡鳥は小さくため息をついた。

 声をやわらげる。


「和颯さまの兵士達なら全員知っているわ。

 身分はまあ――。そんなに高い人はいないわね。

 すごく低い人はいるけれど。それはまあ、しかたないということでいいんでしょう?

 全員、いい人よ。

 いいんじゃない?

 萌が結婚する相手なら、生活には困らないよう、和颯さまに取り立てていただきましょう。きっと了解してくださるはずよ。


 確かに――。

 義銀さまと結婚する方が贅沢はできるでしょうね。

 

 でも、身分が低くても、お金がなくても。

 好きな相手と添い遂げた方が、萌は幸せだと思うの。

 わたしは。

 萌には幸せになって欲しいのよ」


 胡鳥は息をついた。


「――で? 相手は誰?」

「……」

 蔦は平伏している。


「ちょっと! どういうことなの!?

 早く教えなさいよ!」

「……」

 蔦は平伏している。


「………っ!

 ――まさか……」

 胡鳥は息を呑んだ。


「――既婚者………なのね……」

 蔦が再び、頭を深く下げた。


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