~陽の巻~
(遠いな……)
馬に揺られながら、ため息をつく。
尾張の守護・斯波義銀さまと、三河の新守護・吉良義昭さまの面会は、三河で行うことになった。那古野から30kmも離れた場所だ。
まあ、この会見は三河の武士たちに新守護・吉良義昭さまのご威光を示すためのものだから仕方ないんだけど。それにしてももうちょっと、国境付近にしてくれればよかったのに。
「兄さん、目が死んでる」
笑いを含んだささやき声がして、信勝が馬を寄せた。
「ああ……」
俺は信勝の馬が並んで歩きやすいよう、少し道の端にずれる。
「三河は……荒れているな、と思っていた」
目に入る者はみな瘦せていて、けが人が目立つ。腕や足を失っている者も多い。
畑の土質は悪そうだし、あちこちで水害が起こったらしい形跡が見られる。
皆、頑固そうな唇をぐっと引き結び、必死になって何かに耐え忍ぶような顔をしている。
彼らの内戦を煽ったのは、確かに俺たちだ。良心が痛まないといわば嘘になる。だけど。
これが――今川義元の圧政の結果なら。
俺達は決して、今川には屈しない。
「――内戦は、国を疲弊させるからね」
だよね――っ!
ついこの間、内戦を起こしたばかりの俺たちは、馬上で同時に頭を抱える。
信勝が口を開いた。
「今川は今回の会談をきっかけにして、新守護・吉良義昭さまをまつりあげ、三河平定に本腰を入れてくるはずだ」
三河平定の後は――尾張侵略。
「オレたちは兄弟げんかもしちゃったし、守山の件もあった。尾張は荒れている。
このままじゃ、ダメだ。
オレたちも、岩倉家との内戦に、早くカタをつけないと」
「……そうだな……」
分かってるよ。だけど問題は、どうやってカタをつけるかってことで――。
「竜泉寺を、砦に改築したらいいんじゃないかと思うんだけど」
――竜泉寺?
「――岩倉からは、遠くないか?」
あんまり圧力にはならないと思うんだが。それならまだ正眼寺の方が……。
「岩倉じゃない。犬山だよ」
犬山は、美濃の国境付近・木曽川沿いにある。一応、犬山は代々岩倉家の家臣という立場になっているが、実情はもう少し複雑だ。
犬山のすぐ近く、木曽川の対岸には、鵜沼という砦がある。鵜沼は美濃の砦だが、美濃の首都・稲葉山からは相当離れている。
尾張と美濃が戦っていた時ですら、犬山と鵜沼の間には親交もあったと聞いている。
このあたり一帯が、独立勢力に近いと、いえなくもない。
「犬山が俺たちの側になれば、岩倉はかなり不安定になる。
姉さんに、犬山に嫁いでもらえるよう、働きかけてみるよ」
「信勝――」
俺はまじまじと信勝を見つめた。
「――お前、天才だな」
信勝は肩をすくめた。
「まあ、兄さんよりは、ね」




