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俺の妻は忍(しのび)ですか?  ―― そして、次に殺される男は俺ですかっ!?  作者: ひの
21、北に岩倉・東に今川

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~陽の巻~

(遠いな……)

 馬に揺られながら、ため息をつく。


 尾張の守護・斯波義銀さまと、三河の新守護・吉良義昭さまの面会は、三河で行うことになった。那古野から30kmも離れた場所だ。

 まあ、この会見は三河の武士たちに新守護・吉良義昭さまのご威光を示すためのものだから仕方ないんだけど。それにしてももうちょっと、国境付近にしてくれればよかったのに。


「兄さん、目が死んでる」

 笑いを含んだささやき声がして、信勝が馬を寄せた。

「ああ……」

 俺は信勝の馬が並んで歩きやすいよう、少し道の端にずれる。

「三河は……荒れているな、と思っていた」


 目に入る者はみな瘦せていて、けが人が目立つ。腕や足を失っている者も多い。

 畑の土質は悪そうだし、あちこちで水害が起こったらしい形跡が見られる。

 皆、頑固そうな唇をぐっと引き結び、必死になって何かに耐え忍ぶような顔をしている。


 彼らの内戦を煽ったのは、確かに俺たちだ。良心が痛まないといわば嘘になる。だけど。

 これが――今川義元の圧政の結果なら。

 俺達は決して、今川には屈しない。


「――内戦は、国を疲弊させるからね」

 だよね――っ!


 ついこの間、内戦を起こしたばかりの俺たちは、馬上で同時に頭を抱える。


 信勝が口を開いた。

「今川は今回の会談をきっかけにして、新守護・吉良義昭さまをまつりあげ、三河平定に本腰を入れてくるはずだ」

 三河平定の後は――尾張侵略。


「オレたちは兄弟げんかもしちゃったし、守山の件もあった。尾張は荒れている。

 このままじゃ、ダメだ。

 オレたちも、岩倉家との内戦に、早くカタをつけないと」


「……そうだな……」

 分かってるよ。だけど問題は、どうやってカタをつけるかってことで――。


「竜泉寺を、砦に改築したらいいんじゃないかと思うんだけど」

 ――竜泉寺?


挿絵(By みてみん)


「――岩倉からは、遠くないか?」

 あんまり圧力にはならないと思うんだが。それならまだ正眼寺の方が……。


「岩倉じゃない。犬山だよ」

 犬山は、美濃の国境付近・木曽川沿いにある。一応、犬山は代々岩倉家の家臣という立場になっているが、実情はもう少し複雑だ。


 犬山のすぐ近く、木曽川の対岸には、鵜沼という砦がある。鵜沼は美濃の砦だが、美濃の首都・稲葉山からは相当離れている。

 尾張と美濃が戦っていた時ですら、犬山と鵜沼の間には親交もあったと聞いている。

 このあたり一帯が、独立勢力に近いと、いえなくもない。


「犬山が俺たちの側になれば、岩倉はかなり不安定になる。

 姉さんに、犬山に嫁いでもらえるよう、働きかけてみるよ」


「信勝――」

 俺はまじまじと信勝を見つめた。

「――お前、天才だな」


 信勝は肩をすくめた。

「まあ、兄さんよりは、ね」

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