那古野の寺
「まさか、その手紙の内容を鵜呑みになど、なさっておりませんね」
隣に座って湯をすすりつつ、牛一が言った。
静かな口調だが、目つきは鋭い。
「勿論だ」
義銀は手紙をたたみ、牛一に手渡した。
「そもそも我が斯波家から清州を奪ったのは、坂井大膳。
坂井大善は、今川の手下だ」
牛一が頷いた。
「ご承知であるなら、よろしいのです」
「――だが、わたしはそろそろ、この寺から出たい」
義銀はもう、16歳だ。
「確かに――」
牛一は宙を見つめた。
父上が殺されたとき、清州は目も当てられないほど荒れ果てていた。
織口和颯の計らいで、寺に仮住まいさせて貰えて、とても恩義に感じている。
だが清州は今、あれからたった2年しか経っていないとは思えないほどの復興を遂げている。
今なら――自分が守護として、清須に舞い戻ることも、不可能ではないのでは……?
「――織口和颯は、このままわたしを、ここに閉じ込めておくつもりだろうか」
――織口知家は本当に、斯波家から尾張を奪うつもりだろうか……
「まさか!
今川義元の口車に乗ってはいけません。
織口和颯とは、何度もお会いしているではありませんか。
あれは、明るく単純で、まっすぐな男です。主君を裏切ったり、陰謀を張り巡らせたりできるタイプではありません。
確かに少し――ストレートすぎるというか、深読みできないというか……。鈍くて、お人好しで、騙されやすいところはあるようですが……」
義銀はため息をついた。
「わたしは、以前、織口和颯に会った時に、『清須に戻りたい』と、それとなくほのめかしてみたのだが……」
「ああ……」
牛一は苦笑いした。
「それとなくほのめかしたくらいでは、あの男には伝わらないでしょう。
はっきりまっすぐ、きっぱりサクッと明言しなければ通じません。
ここはもう直球で、直接お伝えしてみてはいかがでしょうか?」




