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俺の妻は忍(しのび)ですか?  ―― そして、次に殺される男は俺ですかっ!?  作者: ひの
21、北に岩倉・東に今川

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数週間後 清須

 手紙から目を上げると、得意げな一益の顔が飛び込んできた。


「内容は?」


「三河の新守護・吉良義昭さまに、尾張の守護・斯波義銀さまに、ご会見いただいてはどうか。だと。

 そして義銀さまの随行人は、俺が適任だろう、と」


「――っしゃあ!」

 一益は、握ったこぶしを、ぐっと自分のほうへ引き寄せた。


「――お見事でございます」

 珍しく貞じいが、一益に向かって恭しく頭を下げた。


 胡蝶は不満そうだ。

「――私が、言い出しっぺの仕事だったのに……」

「まあ、そう言うなよ」

 胡蝶の顔を覗き込む一益は、まるで小さな子供を優しくあやしているようだ。


「どっちにしても、お前はあそこが潮時だっただろう?

 どうしたって女は目立つ。

 女が長居をすると不審に思われる。そうだろう?」

 胡蝶は唇を尖らせた。

「――そうだけど……」


 一益の手が、胡蝶の肩に触れた。

「道筋をつけたのはお前じゃないか。

 俺はただ、最後の仕上げを、担当しただけだ」


 一益は俺から手紙を取り上げ、胡蝶の手に持たせた。


 胡蝶が不安そうに俺を見る。

 俺は力強く頷いた。

 胡蝶の顔がぱっとほころび、誇らしげに笑った。




 手紙の差出人はなんと、今川義元だ。


 手紙には、三河で反乱がおきたこと、反乱を治めるために、三河の守護・吉良義安を駿河に呼びつけた事が書いてある。(つまり、反乱の首謀者・吉良義安を三河から引き離し、駿河にとどめた、ということだ)

 義元は、自分の言うことを聞きそうな、吉良義安の弟・義昭を三河の新しい守護に据えることにする。

 だが、兄と違い、弟には、まだ人望も実績もない。

 そこで義元が企画したのが、この会見だ。


 三河の新守護・吉良義昭さまが、尾張の守護・斯波義銀さまと面会すれば、二人は同等だということを、内外に知らしめることができる。

 それはつまり、義昭さまの持つ力が、尾張の守護と同等であることを、三河の者たちに示すことになる。


 一方でこの会見は、義銀さまにとっては、大きなメリットはない。今は力を持たない義昭さまと、既に尾張の守護の座を引き継いだ自分が同等であると、周囲に示すことになる。断られる可能性も十分にある。


 だから義元は、俺に書状を送ってきた。

 書状には『会見時、斯波義銀さまの随行役は是非、織口和颯殿に務めていただきたい』とある。


 この面会は公式行事だ。

 義銀さまの公式行事に随行するということはつまり『尾張の守護・斯波義銀さまの第一の家臣は、織口和颯である』という公式見解を、周囲に示すことができるということだ。


 俺たちは今、尾張国内の岩倉家と紛争中だ。

 俺が義銀さまの第一の家来であると示せれば、自動的に『織口家と敵対する岩倉家は、守護・義銀さまにさからう反逆者』という構図になる。これは織口家にとって計り知れないアドバンテージだ。


 義銀さまは、織口家が保護している。

 俺が口添えすれば、この会見は実現する可能性が高くなる。

 

 ――今川義元。

 恐ろしい政治的センスの持ち主だ。

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