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俺の妻は忍(しのび)ですか?  ―― そして、次に殺される男は俺ですかっ!?  作者: ひの
20、北に岩倉・東に今川

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〜カワセミの唄〜

「おいおい、拗ねるなよ。

 確かに任務も大事だが、報告はそれ以上に大事だ。

 分るだろう?」


 胡蝶は唇を結んで速足で歩く。

「分かってる。分かってるわよ。

 だけど――あと20日……!

 いえ、あと10日でも潜伏すれば、もっと成果が出せたはず。

 カワセミもそう思うでしょう!?」

 

 三河での成果は上々だった。

 今川家に侵略された三河武士たちは皆、不満をため込んでいて、反撃の機会を窺っていた。

 俺たちはいがみ合っている彼らをなだめ、さりげなく横のつながりを構築する手助けをした。


 俺は肩をすくめた。

「俺も、そう思う。

 だが――。一度、清州に戻ったほうがいい」

 ――そろそろ、和颯が発狂する。


 胡蝶は不満そうな顔をして横を向いた。



 三河で活動する胡蝶は、美しかった。

 冴えわたる勘。鮮やかな手腕。

 やはりお前は、骨の髄までくのいちだ。


 俺はいろいろな奴と組んで仕事をしてきたが、胡蝶と組んで挑む任務は別格だ。

 俺には、胡蝶の考えていることが手に取るように分かるし、必要な時にはぴったりと息を揃えることができる。

 俺と胡蝶が組めば、この世に不可能な任務なんてないと、本気で思う。

 胡蝶も――同じように思っていると信じている。



「分かったから――。

 もう機嫌を直せ。

 ほら、もうすぐ熱田が見える。

 ケンカしていると目立つぞ」


 ぷりぷりしながらそっぽを向いていた胡蝶が、唇を尖らせて俺を見た後、すっと隣に寄り添った。

 たちまち俺たちは、仲睦まじい夫婦の雰囲気を醸し出す。

「清州に戻って和颯様に中間報告を済ませたら、その足でもう一度三河に戻りましょう。

 今が好機よ。日を置かないほうがいいわ」

 俺はちらりと、胡蝶に目をやる。

「おう。

 和颯が、許可すれば、な」


「許可しないはずないでしょう。

 絶好の機会よ。 

 今なら、必ず成果を出せるわ」

 ――そのとおりだ。

 今が絶好の機会、という部分は、な。



 俺は目を細めて前方を見つめる。

 

 前方から、こちらに向かってくる馬がいる。

 癖のない、美しい走りだ。

 あの馬には、乗ったことがある――。


「おう。噂をすれば、だ」


 眉をひそめて俺を見上げた胡蝶が、前方を見て目を丸くする。

 その頬が、たちまち紅を刷いたようにさっと色づき、背中からは、この10日間一度も見せなかった気品が漂いはじめる。


 眩しい、な。


 和颯を乗せたものかはが、みるみるうちに近づいてくる。

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