〜カワセミの唄〜
「おいおい、拗ねるなよ。
確かに任務も大事だが、報告はそれ以上に大事だ。
分るだろう?」
胡蝶は唇を結んで速足で歩く。
「分かってる。分かってるわよ。
だけど――あと20日……!
いえ、あと10日でも潜伏すれば、もっと成果が出せたはず。
カワセミもそう思うでしょう!?」
三河での成果は上々だった。
今川家に侵略された三河武士たちは皆、不満をため込んでいて、反撃の機会を窺っていた。
俺たちはいがみ合っている彼らをなだめ、さりげなく横のつながりを構築する手助けをした。
俺は肩をすくめた。
「俺も、そう思う。
だが――。一度、清州に戻ったほうがいい」
――そろそろ、和颯が発狂する。
胡蝶は不満そうな顔をして横を向いた。
三河で活動する胡蝶は、美しかった。
冴えわたる勘。鮮やかな手腕。
やはりお前は、骨の髄までくのいちだ。
俺はいろいろな奴と組んで仕事をしてきたが、胡蝶と組んで挑む任務は別格だ。
俺には、胡蝶の考えていることが手に取るように分かるし、必要な時にはぴったりと息を揃えることができる。
俺と胡蝶が組めば、この世に不可能な任務なんてないと、本気で思う。
胡蝶も――同じように思っていると信じている。
「分かったから――。
もう機嫌を直せ。
ほら、もうすぐ熱田が見える。
ケンカしていると目立つぞ」
ぷりぷりしながらそっぽを向いていた胡蝶が、唇を尖らせて俺を見た後、すっと隣に寄り添った。
たちまち俺たちは、仲睦まじい夫婦の雰囲気を醸し出す。
「清州に戻って和颯様に中間報告を済ませたら、その足でもう一度三河に戻りましょう。
今が好機よ。日を置かないほうがいいわ」
俺はちらりと、胡蝶に目をやる。
「おう。
和颯が、許可すれば、な」
「許可しないはずないでしょう。
絶好の機会よ。
今なら、必ず成果を出せるわ」
――そのとおりだ。
今が絶好の機会、という部分は、な。
俺は目を細めて前方を見つめる。
前方から、こちらに向かってくる馬がいる。
癖のない、美しい走りだ。
あの馬には、乗ったことがある――。
「おう。噂をすれば、だ」
眉をひそめて俺を見上げた胡蝶が、前方を見て目を丸くする。
その頬が、たちまち紅を刷いたようにさっと色づき、背中からは、この10日間一度も見せなかった気品が漂いはじめる。
眩しい、な。
和颯を乗せたものかはが、みるみるうちに近づいてくる。




