30分後・正眼寺近くの村
「頼むっ! 後ろのほうで、竹槍を持って立っているだけでいいんだ!」
俺は集まった皆を見回した。
彼らは、気まずそうに眼を見合わせる。
「だけど……。
岩倉軍は3000人もいて、もう近くまで迫ってきているんですよね――?」
「そうなんだ! みんなピンチだし、時間がないんだよ!
頼むから、急いで助っ人に来てくれ」
「……ええ~……。
嫌ですよ。
戦闘になったら、どうするんですか」
「だから、戦闘にならないようにするために――」
「お断りします。
だいたい和颯様、戦は下手くそだし……
俺も、命は、ひとつしかないんで」
「――えっ、ちょっ、まって……、
そんなこと言わずに――」
俺は必死で、立ち去ろうとする男の腕に縋りついた。
男は、自分の腕にすがりつく俺を迷惑そうに見ようとして、目線を俺の背後に固定させた。
その顔が、にへら~、っと、だらしなくゆがむ。
「はいっ、竹槍です!」
萌の声がして、竹槍が差し出された。
「あなたなら、きっといい働きをしてくださると信じています!
頑張ってきてくださいっ!」
笑顔の萌が男の手を握った。
男の鼻の下が伸び、顔がとろけそうに微笑んで――我に返る。
男は、さっと背筋を伸ばした。
「はいっ! 山田村の惣兵衛、きっと和颯様のお役に立って見せます!」
男は、先ほどとは人が変わったように竹槍を掲げ、一目散に竜眼寺へと走っていく。
「応援しています!」
萌の声援が飛ぶ。
萌は別の男を見た。
「お兄さんも、お願いします!」
にっこりと、2本目の竹槍を差し出す。
たちまち2人目の男が鼻の下を伸ばした。
――萌、容赦ないな……。
たちまち萌の前に男たちの行列ができる。
萌から竹槍を手渡された男たちは、意気揚々と竜眼寺へと繰り出していく。
――美人、恐るべし……
だけど、どうして萌が、このタイミングでここへ……?
萌の背後には兜を目深にかぶった小柄な少年がいて、黙って萌に竹槍を手渡していた。




