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俺の妻は忍(しのび)ですか?  ―― そして、次に殺される男は俺ですかっ!?  作者: ひの
21、北に岩倉・東に今川

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273/333

〜陽の巻〜

 蔦は目を伏せている。


 胡蝶が萌を見た。先ほどとは打って変わって、瞬時に声が柔らかくなる。

「そうは言っても……。

 萌もいつかは嫁ぐでしょう?

 胡蝶姉さんが、萌にぴったりの、これ以上ない縁談を探してきます。

 萌は、どんなお相手に嫁ぎたいの?

 萌の求める条件を教えてちょうだい」


 萌はふるふると首を横に振った。

「萌は……。

 萌は、お嫁になど行きたくないのです。

 萌は、胡蝶姉さまと和颯兄さまが、世界で一番大好きです。

 萌は、ずっとずっと、死ぬまでずっと、ここにいたいのです」


 蔦は下を向いたまま凍りついている。


 胡蝶が困惑顔で俺を見た。

 俺は胡蝶に「心配ない」と目線で伝え、そのまま萌に笑いかけた。


 結婚もせずに、ずっとここにいたいなんて。


 うんうん。

 萌はまだまだ子供だなぁ。



「そうか。

 じゃあ、この話は一旦保留にしよう」

 俺は穏やかに言って、手紙の山を隅によせた。


 縁談はまだ、萌には早すぎたみたいだ。


「結婚相手は、萌にとってはとても大切なことだ。だからきちんと選ばないと。

 でも、萌はまだ14歳だ。焦る必要はない。

 機が熟してから、また考えることにしよう」


 もう少し経ったら、萌も縁談に興味を持つようになるはずだ。


 萌と蔦は目を伏せている。

 胡蝶が何か言おうと口を開き――。



「和颯様っ!」

 屋敷の外から大声で呼びかけられる。


「大変です!

 岩倉家が、正眼寺を、砦に改築しようとしています!」


 ――ななな、なんですと――っ!!?


挿絵(By みてみん)




 まずい。

 これは、まずい。


 俺はこめかみを押さえた。



 胡蝶の父・斎藤道三は、息子・斎藤義龍に殺された。

 斎藤道三は俺の後ろ盾であり、同盟者だった。それなのに斎藤道三が亡くなるとき、俺は何もできなかった。

 だから、尾張の北側にいる者は、俺よりも斎藤義龍が強く、頼りになると判断した。


 岩倉家と織口家は、昔から小競り合いを繰り返していた。

 その岩倉家が、斎藤義龍についた。


 今までは表面上は仲良くやってきたが、とうとう表立って、織口家に敵対するようになっている。

 最近の岩倉家は、清州の近くまでやってきて、村に火をつけたり、作物を奪ったり、やりたい放題だ。

 反撃しようにも、俺たちにはもう、そこまでの力は残っていない。

 俺と信勝は兄弟で争い、力を失った。

 これ以上、尾張国内で戦ったら、今度こそ、西の今川家に攻め込まれてしまう。

 俺は歯を食いしばり、なんとか領民をなだめ、ぐっとこらえていた。



 そんな中、岩倉氏が正眼寺を改築するという。


 ――いくら何でも、さすがに、これは、まずい。


 正眼寺は、清州から7kmしか離れていない。こんなところに岩倉氏の砦を築かれたら、いつ清州が攻められるか分からない。

 しかも正眼寺は、港町・津島とも10kmしか離れていない。

 津島は、俺たちにとって大切な収入源だ。津島を岩倉氏に奪われるわけにはいかないぞ。


 俺は大声をあげた。


「貞じいっ! 一益っ! どうしよう!?」


 バタバタと足音がして貞じいが現れた。一益もいる。


 胡蝶が口を開いた。

「――正眼寺の周りには、うっそうと藪が茂っております。

 あの藪を切り払ってしまったら、砦としての防御力が落ちるのでは……?」


 貞じいが頷いた。

「藪を切り払うだけなら、非戦闘員で対応できます。

 町人を集めては?」


 一益が言う。

「砦の工事が始まってからだと、こっちが攻撃されちまう。

 ぐずぐずすんな。やるなら、早くしねぇと」


 俺は頷いた。

「よし、やろう。

 今、すぐだ。


 藪を刈る者たちと、護衛の兵士が必要だ。

 荷車も用意。

 藪は、刈り取ったものが持ち帰っていいことにしよう。

 大急ぎで人を集めてくれ。

 俺も出る!」

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