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俺の妻は忍(しのび)ですか?  ―― そして、次に殺される男は俺ですかっ!?  作者: ひの
21、北に岩倉・東に今川

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〜陽の巻〜 清須・和颯の書斎

「和颯兄さま。

 萌でございます」

 軽やかな声。


 俺の隣で黙って座っていた胡蝶が、顔を上げた。

 俺は読んでいた手紙をくるくると巻き、目の前に置いた。そこには、手紙の山ができている。



「ああ、萌。

 呼び出して悪い。

 入っておいで」

「はいっ!」


 扉が開き、眩しそうな笑顔の萌が顔を出した。

 続いて(ツタ)が、華やかな笑みを浮かべて入室したが、俺の脇にいる胡蝶を見るとみるみるうちに顔を強張らせた。


 蔦は笑顔を引きつらせたまま、扉の脇に横向きに正座した。胡蝶の方を、見ようともしない。



 萌は屈託なく俺の前に座り、俺と胡蝶に笑いかけた。

「和颯兄さまから、萌にお話があると伺いました」


 俺は頷いた。

「うん、胡蝶も萌も。

 これを――見てほしい」


 俺は手紙の山を指さした。


「これは………?」

 胡蝶が待ってましたとばかりに、山の中から、さっと1通を手に取った。素早く開き、ざっと目を通す。表情も変えず、すぐ2通目に手を伸ばす。

 萌がおずおずと俺を見た。俺が頷いたので、萌も1通を手に取った。丁寧に開く。蔦がにじり寄り、後ろからのぞき込んだ。


 この手紙は、差出人が違うだけで内容はほとんど同じだ。

 前半に書かれているのは萌の顔立ちの美しさや、立ち振る舞い、気立ての良さを褒める内容。続いて自分の息子の性格の良さと、武勇について。彼がいかに将来有望かが書き連ねてある。

 そして最後に、自分の息子と萌の縁談をまとめてはどうか、との打診が続いて結んである。


 これはまぁ、つまり、この手紙の山は全て、萌への求婚の手紙、というわけだ。


 萌は美人だ。どのくらい美人かというと、この辺りで知らない者はいないレベルの美人だ。

 肌は白くて滑らかだし、体つきはふっくらとしていて、目は細く切れ長で、髪も艶やか。

 年齢も14歳。そろそろ結婚適齢期だ。縁組を求める手紙は、連日のように届いている。



「どう思う?」

 萌が口を開く前に、胡蝶が言葉を被せてきた。

「ありえません」


 胡蝶が手にしているのは、わりときちんとした家柄の息子との縁談だ。

「全く萌にふさわしくありません。

 この男にはすでに側室がいて、子供まで産まれているとか。

 そのような家に嫁いでは、萌が苦労します」


 かなり有望だと思っていた縁談をバッサリと却下され、俺はたじろいだ。


「……そ、そうか……。

 じゃあ、こっちなんて――」

 俺が言い終わる前に、胡蝶が口を開く。

「とんでもありません。

 本人はそう悪くありませんが、その家は姑が性悪です。どのような娘が嫁いでもいびり倒すに決まっています」


 ……さすがはくのいち。

 他家の情報にも詳しいな。


「でも、コレは……」

「その男はダメです。

 戦では勇猛果敢ですが、酒癖が悪いとの噂があります」


「………厳しいな」

 胡蝶は、キッと顔を上げた。

「他でもない、萌が、嫁ぐのです。

 萌にふさわしい、完璧な、最高の縁組をまとめなければなりません」


 胡蝶の気迫に押し負けそうだ。


「おぅ……」

 そ………そうだよな……。


 俺は萌を見た。

「萌は……?

 萌は、どう思う?

 気になる縁談はあるか?」


 萌は困惑したように俺を見た。

「萌は……。

 萌は、お嫁になど行きたくありません」

 ――おおっと。そう来たか。

 俺は心の中で、軽くのけぞった。

 これは想定外だぞ。


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