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俺の妻は忍(しのび)ですか?  ―― そして、次に殺される男は俺ですかっ!?  作者: ひの
20、稲生

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~陰の巻~ 屋敷の外

 土田御前と信勝は、公式には胡鳥の義母と義弟にあたる。

 胡鳥は帰路に就く4人を、屋敷の外まで見送りに出た。


 和颯様はまだ座敷でぼんやりと座っているはずだ。

 一益は和颯に付き添っている。



「お気をつけて、お帰りくださいませ」

 控え目に見送りの言葉を口に出し、胡鳥は頭を下げた。


 ずっと俯いていた土田御前が、キッと顔を上げ胡鳥を睨んだ。

 吐き捨てるように言い放つ。

「まったく。和颯は優しい子だったのに。

 とんだ嫁を貰ったせいで、ひどい目にあったわ」

 

 勝家と秀貞が、はっと顔を上げた。


 信勝が慌てた様子で止めに入る。

「母上っ……」


「信勝は、織口家当主。和颯の主君だったのよ。

 それを裏切るなんて。

 あの、泣き虫で優しかった和颯が、そんなことをするなんて。

 とても信じられないわ」


「母上、さあ、早く参りましょう――」

 信勝が土田御前の肘に手を添えた。


「うるさいわね、信勝。

 その手を離しなさい」


 土田御前はパシリと音を立て、信勝の手を振り払った。

「母上!」

 土田御前はカラカラと笑い声をあげる。

「ああ、そういえば貴女(あなた)の父上は、主君を裏切ってその地位を奪ったんだったわね。

 きっと貴女が主君への裏切り方を教えてくださったんでしょう?

 どうせなら、ついでに――」

「母上っ!」

 信勝が叫び声をあげた。


「おやめください。見苦しい!

 勝家っ! 母上を、早く(かご)にっ!」

「はっ!」

「オレの事は待たなくていいから、先に行け!」


 胡鳥の脇をバタバタと走る足音がして、男たちが数人がかりで土田御前を籠に押し込んだ。

 土田御前は彼らの手を押しのけるように、籠から身を乗り出した。

 

貴女(あなた)のせいよ!

 子供の一人も産めないくせに、いつまでここに居座るつもりなの!?

 貴女が――! 貴女が和颯に輿入れするまでは、なにもかもうまくいっていたのに!

 あんたみたいな女が嫁いできたりするから――っ!」


 キーキーと泣きわめいて騒ぐ声。

 すぐに籠が出され、やがて声も聞こえなくなった。



「胡鳥義姉さま。申し訳ございません」

 信勝さまが、深々と頭を下げた。

「兄上に命乞いに来た帰りに、胡鳥義姉さまに暴言を吐くなんて――全くどうかしている」


 顔を上げた信勝は、やつれて見えた。


「二人でもう一度、兄上のところに戻りましょう。

 さっきの母上は、さすがにやりすぎだ。

 兄上から母上に、お灸をすえてもらったほうがいい」

 

「いえ――」

 胡鳥は、歩き出そうとする信勝の袖を引いた。


「できれば、和颯様には――黙っていてください」

 稲生村の合戦で、和颯様は憔悴しきっている。

 これ以上心労をかけたら、本当に倒れてしまう。


 信勝は勢いよく振り向いて、胡鳥を見た。

「胡鳥義姉さま!

 あんなことを言われて、黙っておくおつもりですか!?」


 胡鳥は俯いた。

「――本当のこと、ですから」

 

 父が主君を裏切って出世したのは、紛れもない事実だ。しかも自分は、その陰謀に加担している。

 胡鳥が子供を産めないことも。

 土田御前が口にしたことは、何一つ間違っていない。

 ただ土田御前は、織口家が斎藤家に騙されていたことを世間から隠し通すため、和颯さまが自分と離縁できないでいるという事実を、知らないだけだ。

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