~陽の巻~ 和颯 対 林道具
「ぐおおおおおおっ!」
半平の咆哮。
甲冑がきしむ音。
左半身を真っ赤に染めた半平が、道具に体当たりをするのが見えた。
「和颯様を殺されてたまるか!」
半平の血で、道具の甲冑が赤く染まった。
「この、死に損ないが!」
「うるさい! まだ死んでねぇ!」
半平の額からはだらだらと汗が流れている。
半平は右手の太刀を振り上げた。凄い気迫だ。
「があああああっ!」
雄たけびとともに道具に向かい、突進していく。
道具は太刀で受け止めた。
「邪魔だ! どけっ!」
道具が半平の胸を蹴った。半平はあたりを血に染めつつ、その場に倒れ伏した。
よろめいた道具。後ろから、若杉が駆け寄り、羽交い絞めにする。
「きさまっ! 何をするっ!」
道具が太刀を振り上げた。
「和颯さまっ!」
若杉が、道具の甲冑の胸の部分を素手で握り、強く横に引いた。
道具の甲冑は、肩から下げる紐が切れている。胸を覆っていた甲冑の板が、少し左にずれた。
俺はわずかにできた甲冑の隙間に太刀を突き立てようとして――
凍りついた。
殺す? 俺が?
道具を??
道具は俺の――家臣だぞ?
道具は太刀を振り上げた。若杉を切り捨てようとしている。若杉は逃げようとしない。甲冑を横に引いたまま、踏みとどまっている。
若杉が必死の形相で叫んだ。
「和颯さま――っ」
道具の太刀が振り下ろされ――
「ぎゃああああああ――っ、道具――っ!!」
俺の目はきっと、血走っていたと思う。
全身を使って勢いをつけ、両手で持った太刀を、若杉が作った隙間にずぶりと突き刺した。
物心ついた時にはもう、刀を握っていた。
それからずっと、訓練してきた。
来る日も、来る日も、毎日。気が遠くなるほど。
戦場へ出た。
数え切れないほど、出た。
目の前で人が死ぬところを何度も見た。
敵が死ぬところも。味方が死ぬところも。敵でも味方でもない、通りすがりの誰かが巻き込まれて死ぬところも。
村木では、鉄砲で何人もの敵を撃ち殺した。
だけど。
じぶんの手で、よく知っているひとをころすのは、はじめてだった。
道具。貞じいの弟。
俺が生まれる前から、織口家に仕えてくれていて、気がついたときには俺の家臣だった。もう、10年以上も。
要領がよくて、お調子者で。その場を乗り切るためにいい加減なことも言うから、ちょっと信用できないところもあって。
だけど、俺がへこんでいるときはいつも、隣に来て、なぐさめて、笑わせてくれた。
貞じいは気難しい所があったから、俺はいつも、たじたじで。
そんな時に俺と貞じいの間に入って仲を取り持ってくれたのも道具だった――。
俺の太刀の切っ先が、道具の着物と肌を裂く。
やわらかい肌を切り裂きながら俺の太刀が道具の肉をえぐる。
俺の目の前で血が噴き出し、甲冑にこすりつけられた太刀が、不愉快な音を立てる。
俺の刀は勢いに任せて道具の胸の骨を砕き、背中につけた甲冑に突き刺さって止まった。
はあっ…………。
はあっ………。
はあっ……。
道具は太刀を振り上げていた。
その目はカッと見開いたまま宙を睨み、ガクリと首を垂れた。
道具は死んだ。
俺が――。
俺が―――。
――俺が、殺した。




