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俺の妻は忍(しのび)ですか?  ―― そして、次に殺される男は俺ですかっ!?  作者: ひの
20、稲生

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~森 可成~ 逆転

 和颯様は、満面の笑みを浮かべ、馬に乗った武将から目を離した。

 そのまま目線を下にずらし、たちまち表情を変えた。

 粗末な着物を着て、光る刀を振り上げている男を睨みつける。あの着物は、緊急招集された百姓に違いない。

「作四郎! お前の持っている刀は、俺がこっそり倉から出して渡してやったやつだよなぁ!?

 その刀で、俺を切ろうっていうのか!?

 本気じゃないよなぁ!?」

 作四郎はたじろいだ。

「……え。いや、その――……。これは――」


 俺は、作四郎の隣で立ち尽くす男を見る。

「甚一っ! お前の息子が本家の柿の実を勝手に取って、殺されそうになった時、一緒に謝ってやっただろう!

 それでも俺を殺すのか!?

 俺が死んだら、呪って出るぞ!」

「えっ……!」

 甚一は青くなり、そっと刀を背中に隠した。


 和颯様は胸を張り、全員を見回した。

「皆! 聞け!

 ここで俺が負ければ、織田家は今川家の犬になる!

 今川家は、属国の民を大切に扱わない!


 いいか?

 お前たちが、今川家のために、命を落とすことになるんだぞ!?


 いいのか!? 本当に!?

 本当に、それでいいのか!?

 悲惨な目に合うのは、お前たちだけじゃない。

 お前たちの息子や、娘や、孫やその子供も、悲惨なことになるんだぞ!!

 

 変えるなら――今しかないんだ!」


 力強く言い切り、最高の笑顔を見せた。


「俺は――。

 お前たちなら、できる、と信じている!」


 はっ、と百姓たちが目を上げた。

 

 和颯様はそのひとりひとりの目を見つめ、うんうんと頷いた。

「今ならまだ間に合う。

 さあ――立ち去れ!!」


 じわり、と百姓たちが反応した。


「いや、ちょっと待て! 立ち去るな!」

 焦った様子の武将が、百姓たちを振り向いた。

「今はこちらが優勢だ! 和颯殿の口車に乗ってはいけない!」


「いや……でも……」

 百姓たちは目を見合わせた。


 たちまち鬼のような形相になった和颯殿が叫んだ。

「さあ、どうするんだ!?

 決めるのは今だぞ!」

 和颯殿は長い槍をぐるぐると振り回し、黒龍を後ろ脚で立たせた。

 すごい気迫だ。

 背中側にいる俺たちにまで、ビリビリとした圧が伝わってくる。


 敵の武将がひるみ、馬が半歩、後退した。

 

 次の瞬間、和颯殿が仏のような笑顔を見せ、全員を見回した。

「いいか? 思い出せ。

 今まで俺が、一度でも、お前たちを裏切ったことがあったか?

 俺を信じろ。

 これはお前たちと、お前たちの子供と孫と、尾張のみんなのためなんだ。


 もう一度だけ言う。

 これが最後のチャンスだぞ。

 ここで、俺と戦うな。今なら間に合う。

 さあ――逃げろ!」


「わ、わああああああ~~~~」

 1,000人いた百姓たちは、総崩れになり、一斉に後ろを向いて逃げ出した。



 ――すっ……すげぇ……。


 何かよくわかんないけど、1,000人の柴田軍を追っ払った。


 佐久間大学がぬかるみに落ちた刀を拾い、犬六に手渡している。

 頬の泥を拭いてやり、肩を抱き、声をかけ、背中をたたいた。

 犬六は笑顔になり、力強く頷いた。



 和颯様は馬の首を巡らせ、俺たちに向かって言った。

 晴れ晴れとした笑顔だった。


「皆、よく頑張ったな!

 怪我はないか?

 

 今、お前たちが撃退したのは、織口家一の名将・柴田勝家の率いる1000人の軍隊だ!

 すごいぞ!

 俺たちは最強だ!

 皆、自信を持て!


 実はまだ、南側から敵が来る。

 二回も連続で戦うのは厳しいということは分かっているが、俺は、お前たちなら撃退できると信じているぞ。

 次は700人! 大将は林道具だ!


 さっきの戦闘で十分な成果を上げられなかった者は、二度目のチャンスで頑張るといい。

 皆の頑張りは、しっかり見ているからな!

 次も頑張ろう!!

 さあ行くぞ! 出陣だ――っ!」


「「「応!!」」」


 不思議なことに、さっきまで感じていた疲れも、しびれも、痛みも、恐れも、嘘のように引いていた。

 俺たちは南に向かい、勢いよく駆けだした。

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