~森 可成~ 絶体絶命
はあっ……。
はあっ……。
可成と信房は、肩で息をしている。
二人とも顔中を血だらけにして、無言で目を見合わせた。
静寂。
すぐに合戦の喧騒が押し寄せてくる。
「おのれっ! 大原殿の仇っ!!」
まだ新しそうな甲冑を着た男が、切りかかってきた。
可成と、甲冑の男の目が合った。
あいつ、知ってる。
前に守山で会った。名前は。えっと――
相手の男の動きはどうしようもなくゆっくりで、振り下ろす太刀はまるで沈みゆく太陽のように緩慢に見える。
避けないと、殺される。早く逃げなければ。それなのに。
――あ。だめだ。
もう、動けない。
――そっか。オレ、ここで死ぬのか。
そっか。死ぬのか……。
まあ……いいか。
今までいっぱい、殺してきたしな。
悪くない人生だった。と思う。
和颯様と過ごす毎日は、楽しかった。
「ぎゃー!」
叫び声をあげて割り込んできたのは、熊吉だった。
「可成の兄貴を殺すな――っ!」
相手の男がひるんだ。
「何すんだ!」
敵陣で、別の男が太刀を構えた。ああ、こいつも知ってる。
「俺が相手だ!」
「ンだとこらぁ!」
熊吉が啖呵を切った。すぐさま熊吉の周りに味方が集まる。
熊吉の後ろから犬六が現れた。
下手くそな構えでよたよたと敵陣に突っ込んでいく。
「うおおおおっ!」
応戦すべく、敵兵が手に持った武器を構えなおした。
ああ。犬六……!
あんな構え方じゃあ、すぐに殺される――。
「こら―――っ!」
すごい勢いで黒龍に乗った和颯様が走りこんできて、犬六と敵兵の間に割り込んだ。
「構えがなってな――い!!」
スパコ――ン!
和颯様が馬の上から槍の柄を振り回し、犬六の持っていた刀を弾き飛ばした。
犬六の刀は、ぽーんと宙を舞い、ぬかるんだ地面にぽとりと落ちた。
えっ……?
えっ? え――っ!?
味方に武器を取り上げられ、呆然とする犬六。
和颯様は続けた。
「そんな構え方じゃダメだ。もっと腰を入れろ。
それから! 相手をよく見ろ!!
あいつらは! 敵じゃない!
先月まで! 一緒に守山を包囲した! 仲間じゃないか!!」
――えっ……?
双方がたじろいだ。
そりゃ……確かに……。
なんとなく顔見知り同士だし、殺しあうことに対して、もやもやした気持ちもあったけど――。
でも――。
えっ?
ええーっ?
「お前たちもだっ!!」
和颯殿は勝家軍の武将も怒鳴りつけた。
「俺たちの敵は、今川だっ!
味方に刃を向けるとは、何事だ!」
「えっ……でも……。
しかしですね、和颯殿……?
もとはといえば――」
目を白黒させた敵方の武将がしどろもどろになる。
和颯様は、くわっと口を開いた。
「主君を守るのが、お前たちの役目だろうがぁ!
信勝と! 信澄を! 守り! 支える!
それが! お前たちの仕事だ!!」
「いや、だからそもそも……」
彼らがもごもごと反論する。
「だからって、何にも考えずに参戦すればいいってもんじゃないだろう!!」
後ろで黙って聞いていた可成は、目を剥いた。
―――むっ……無茶苦茶だ……!
そもそも事の発端は、和颯様が織口家当主・信勝殿に従わなかったことが原因だと理解している。しかもこの戦いは、先に和颯様が挑発したものだ。
なのに! 負けそうになったからって、突然そんな理論を展開させる!?
どの口が言うんだ――っ!?
しかし和颯様は、うまい事相手をおだてつつ、胸を張って機嫌よく持論を展開していく。
和颯様は当主・信勝殿の兄上だ。
敵の武将も、いつのまにか、つい、和颯様に敬語を使いはじめた。
――言ってることは、支離滅裂だし、実戦も負けそうだ……。
……。
…………。
だけど……。
……。
…………。
なんか、和颯様が押してる――っ!!?




