~陽の巻~ 稲生村の砦
「砦を捨てる! 打って出る!」
稲生村の砦で、俺は声を張り上げた。
敵は1000人の柴田軍。700人の林家の軍勢と、合流されたら終わりだ。
「武器を取れ! 敵は東! いくぞ! 今すぐだ! 出陣――っ!」
出撃命令を受けた仲間たちは、武器を手に取り、弾かれたように東へ走り出した。
俺は残って、砦の様子をざっと確認する。
「どうでしょうか、和颯様」
森可成が声をかけた。
兜をかぶり、準備は万端だ。
信房も顔を引き締め、こちらを見ている。
砦は問題なさそうだった。
「うん、いいだろう」
俺は頷いた。
柴田軍は1000人とはいえ、俺たちも700人。激突すれば、柴田軍の人数だってかなり減るはずだ。
それでも劣勢になったら、この砦に籠って最後まで戦うぞ。
「皆が、戦っている。俺も行く」
なんといっても1,000人の軍勢に、700人で挑むのだ。
厳しい戦いになるはずだった。
俺は馬に乗り、砦に残った仲間たちを見回した。
「よし、みんな、準備は良いか?」
ほとんど全員が出撃したので、ここにいるのは30人とちょっと。でもみんな、心から信頼できる俺の精鋭たちだ。
全員の目が、俺を見て、神妙な顔で頷いた。
俺と一緒に、ここで散る覚悟はできている。
皆の目がそう語っている。
俺は、泣きそうになる。
泣くな、俺。
ここで泣いたらダメだ。
こらえろ、俺。
俺は口を開いた。湿った声が出た。
「行くぞ――」
「応――っ!」
だが、戦場である東の方角へ馬の首を回した俺たちが見たのは、予想のナナメ上を行く光景だった。
「和颯様――っ!!」
仲間たちが、血相を変えて駆け戻ってくる。
「大変です! 負けそうですっ!!」
「敵が追ってきますっ!」
「助けてください――っ!」
ええええええっ!!?
今さっき、出撃したばっかりじゃない!?
確かに劣勢になるとは思ったけど!!
この短時間で総崩れ!?
嘘でしょ!
負けるの、早すぎ――っ!!!
「こら――っ!!
何やってんだ――っ!
ちょっとは粘れ――っ!!」
ねえ、みんなっ!!
ここで負けたら後がないって分かってるよね!!?
「ぎゃ~~! ごめんなさい~~!」
皆は口々に叫びながら、砦へと逃げ帰る。
「ひー! 助かった!!」
「気を抜くな! 立て直すぞ!!」
俺は唾を飛ばして、逃げ帰った仲間たちを叱咤激励する。




