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俺の妻は忍(しのび)ですか?  ―― そして、次に殺される男は俺ですかっ!?  作者: ひの
20、稲生

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~柴田 勝家~

 騎馬の兵士が挑みかかってきた。

 顔見知りだ。山田治部。

 自然と、勝家の周りの兵士たちが後ろに下がる。

 勝家と治部が戦う周りには、誰もいなくなった。


「――裏切者め」

「どっちが、だ」


 2人はにらみ合い、警戒しながら馬を巡らせる。

 ぱっ、と治部が勝家に切りかかり、勝家は大剣でそれを受けた。

 一瞬ののち、2人はさっと距離を取る。

 勝家がすかさず大剣を繰り出した。

 治部はひらりと躱し、太刀を振り下ろす。勝家は籠手で受けようとした。

 その動きを読んでいたかのように治部の剣筋が軌道を変え、勝家の左手に燃えるような痛みが走った。


 血しぶきが飛び、治部の口元が僅かにゆるんだ。


 勝家は大剣をひるがえし、治部の胴を狙う。

 一瞬早く治部の太刀が動き、大剣が弾かれ、軌道がそれた。

 治部の太刀が再び勝家の籠手を狙う。


「隙ありっ!」

 勝家は大剣を返し、治部の首元を狙う。

 治部は目を剝き、口を半開きにして勝家を見上げた。

 勝家はその目を見返し、鎧と兜のわずかな隙間から、まっすぐに大剣を突き刺していく。

 研ぎ澄まされた剣先の感覚は、まるで自らの手が治部の喉を穿ったかのように、勝家の全身へと伝わる。

 ぷつり、という感触とともに皮膚が切れる。感じるはずのない温もりとともに血が流れ出た。剣先は薄い筋肉を貫通し、固い膜を突く。空洞を進み、硬い骨に阻まれる。左右に振ると分かる、骨のごつごつとした凹凸。角度を変え、勢いをつけて突き出すと、治部の首の斜め後ろから剣先が飛び出し、兜に当たった。


「ふんっ!」

 そのまま横に薙ぎ払う。切れた首筋から、ぴっ、ぴっ、と規則正しいリズムで鮮やかな赤色の血が吹き上げている。


 勝家は、その首を切り取り、高く掲げた。

「柴田勝家、山田治部を打ち取ったり!!」

 大声で叫ぶ。

 敵兵が、ぎょっとして動きを止めた。


 治部の死は、間違いなく戦闘の流れを変えた。

 敵軍の目の色に動揺が広がり、じわりと後退した。

 気が付けば、敵兵の人数はかなり減っているようだ。


「にっ……逃げろ――っ!」

 誰か1人が声に出し、そのまま踵を返して走り出した。

 それが合図だったかのように、和颯軍は総崩れになる。

 彼らは手にしていた武器を持ったまま、後ろを向いて一目散に逃げ帰っていく。


「逃がすな! 追えっ!!」

 勝家が叫んだ。

 勢いづいた兵士たちが、我先にと、どっと追いかけていく。


 勝家は、足元の地面に横たわる、治部だったものを見下ろした。

 傷口から吹き上げる血の勢いはすでに弱まり、鮮やかな赤色だった血は、次第にどす黒く染まっていく。


「勝家様」

 家来の一人が、貝殻に入った傷薬を持ってきた。

「うむ」

 別の家来に血まみれの剣を渡し、血を拭わせる。

 怪我をした左手に、先ほどの家来が薬を塗りこんでいく。出血はしているし痛みもあるが、物が持てなくなるほどではないだろう。


 勝家は余裕の表情で、和颯の部下を追いかける、自軍の兵士たちを見送った。

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