~柴田 勝家~
騎馬の兵士が挑みかかってきた。
顔見知りだ。山田治部。
自然と、勝家の周りの兵士たちが後ろに下がる。
勝家と治部が戦う周りには、誰もいなくなった。
「――裏切者め」
「どっちが、だ」
2人はにらみ合い、警戒しながら馬を巡らせる。
ぱっ、と治部が勝家に切りかかり、勝家は大剣でそれを受けた。
一瞬ののち、2人はさっと距離を取る。
勝家がすかさず大剣を繰り出した。
治部はひらりと躱し、太刀を振り下ろす。勝家は籠手で受けようとした。
その動きを読んでいたかのように治部の剣筋が軌道を変え、勝家の左手に燃えるような痛みが走った。
血しぶきが飛び、治部の口元が僅かにゆるんだ。
勝家は大剣をひるがえし、治部の胴を狙う。
一瞬早く治部の太刀が動き、大剣が弾かれ、軌道がそれた。
治部の太刀が再び勝家の籠手を狙う。
「隙ありっ!」
勝家は大剣を返し、治部の首元を狙う。
治部は目を剝き、口を半開きにして勝家を見上げた。
勝家はその目を見返し、鎧と兜のわずかな隙間から、まっすぐに大剣を突き刺していく。
研ぎ澄まされた剣先の感覚は、まるで自らの手が治部の喉を穿ったかのように、勝家の全身へと伝わる。
ぷつり、という感触とともに皮膚が切れる。感じるはずのない温もりとともに血が流れ出た。剣先は薄い筋肉を貫通し、固い膜を突く。空洞を進み、硬い骨に阻まれる。左右に振ると分かる、骨のごつごつとした凹凸。角度を変え、勢いをつけて突き出すと、治部の首の斜め後ろから剣先が飛び出し、兜に当たった。
「ふんっ!」
そのまま横に薙ぎ払う。切れた首筋から、ぴっ、ぴっ、と規則正しいリズムで鮮やかな赤色の血が吹き上げている。
勝家は、その首を切り取り、高く掲げた。
「柴田勝家、山田治部を打ち取ったり!!」
大声で叫ぶ。
敵兵が、ぎょっとして動きを止めた。
治部の死は、間違いなく戦闘の流れを変えた。
敵軍の目の色に動揺が広がり、じわりと後退した。
気が付けば、敵兵の人数はかなり減っているようだ。
「にっ……逃げろ――っ!」
誰か1人が声に出し、そのまま踵を返して走り出した。
それが合図だったかのように、和颯軍は総崩れになる。
彼らは手にしていた武器を持ったまま、後ろを向いて一目散に逃げ帰っていく。
「逃がすな! 追えっ!!」
勝家が叫んだ。
勢いづいた兵士たちが、我先にと、どっと追いかけていく。
勝家は、足元の地面に横たわる、治部だったものを見下ろした。
傷口から吹き上げる血の勢いはすでに弱まり、鮮やかな赤色だった血は、次第にどす黒く染まっていく。
「勝家様」
家来の一人が、貝殻に入った傷薬を持ってきた。
「うむ」
別の家来に血まみれの剣を渡し、血を拭わせる。
怪我をした左手に、先ほどの家来が薬を塗りこんでいく。出血はしているし痛みもあるが、物が持てなくなるほどではないだろう。
勝家は余裕の表情で、和颯の部下を追いかける、自軍の兵士たちを見送った。




