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俺の妻は忍(しのび)ですか?  ―― そして、次に殺される男は俺ですかっ!?  作者: ひの
20、稲生

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256/339

~柴田 勝家~ 稲生村から1kmの場所・昼の12時過ぎ

 2時間ほど、黙々と馬を歩かせている。

 後ろに続くのは、急いで集められた1,000人。

 みな、足元は泥だらけだ。それでも毎日畑仕事をしているし、普段から歩くのには慣れている。2時間歩いたくらいでは疲れ切ったりはしない。


 あとほんの1kmちょっとで稲生村だ。



 勝家は顔を上げ、おや、と眉を寄せた。


 前方から、誰か、来る。

 走っている。

 こちらへ向かってくるようだ。


 1人や2人ではない。

 10人や、20人でもないようだ。


 むむ?


 これは――。

 数百人規模の――。


 まさか。


 勝家は振り返り、大声を上げた。


「敵襲!

 前方より敵襲!

 応戦せよ!!


 槍を持った者は前へ!

 隊列を崩すな!!」


 むむ。これは……。

 ……どういうことだ?


 今は昼過ぎだぞ!?

 合戦が始まるのは朝から、と相場が決まっている。


 勝家軍はまだ目的地にも到着していないし、防御態勢も整っていない。

 それはまあ、戦だから仕方がない。

 不意打ちというのはそういうものだ。


 だがここは、和颯が作ったという砦からも離れている。

 ――せっかく作った砦が、まるで活かせていない。


 和颯の部下たちは、細い道をほぼ一列になって、ばらばらに走ってくる。

 ――そんな事をしたら、ひとりずつ確実に殺されてしまう。



 ………。

 あ〜、もしかして………。


 ……罠…………?



 自分が和颯殿なら、どこかに伏兵を潜ませておく。敵が目の前の相手に集中している間に、側面か背後から襲いかかって――。

 ……。

 ……というわけでもなさそうだ。


 どれだけ当たりの様子に気を配っても、伏兵がいる気配はない。というか、このあたりには、兵を潜ませる場所がない。



 和颯殿――っ!!

 ――いったい何がしたいんだ――っ!!?



 行動が、支離滅裂。


 勝家が率いるのは1,000人だが、和颯の部下も700人。それなりだ。

 しかも和颯の部下は、みなよく訓練されていて屈強そうだ。

 全員に戦う気持ちが満ちているのも認めるが――。


 作戦とか、陣形とか、効率とか、そういうものが全く感じられない。



 えっと……。

 まるで、負ける気がしないんだが? 



 勝家は、腰に帯びた大ぶりの剣を抜いた。

 悠々と馬を進め、1,000人の前、道の真ん中に陣取った。


 後ろでは、勝家の部下達が忙しく動き回り、武器を持った百姓たちの陣形を整えつつ、細かい指示を出して防御と攻撃方法の最終確認をしている。

 敵兵は、もう声が届くほどの近くにいる。


「やあやあやあ、我こそは織口信勝様の第一の家臣、柴田勝家。

 その武勇は誉れ高く、北は美濃、西は駿河の端まで知れ渡っている。

 織口信秀様ご存命の折には、小豆坂の合戦で幾多の敵を蹴散らし、この大剣を賜った。

 この勝家の餌食になりたくなければ――」


 勝家は、ぶんっ、と大剣をふるった。

 先頭を走ってきた敵兵が3人、血しぶきを上げて倒れた。


 勝家は、すっ、と大剣を持ち上げ、剣の先で指し示すようにしながら、敵兵の一人一人を見回す。

「今この場で立ち去るがいい」


 自軍の兵士たちが「わあーっ!」と歓声を上げた。

 一瞬だけ、ほんの少しひるむような空気が敵軍を覆った。


「そんなの関係ねぇっ!」

 命知らずのごろつき、を絵にかいたような男が一人、槍を掲げて勝家に挑みかかった。

 「わあっ!」という掛け声とともに、700人が一斉にこちらへ向かってくる。躊躇する者はいない。


「柴田勝家! 覚悟っ!」

 小柄な男が正面から挑みかかってきた。

 いい目を、している。

 勝家は大剣を薙いだ。

 殺すのは惜しいな。そう思った時にはもう、彼は屍になっていた。


 背後でキン、という音がして兵士たちが戦い始めた。

 武器の扱いに関しては、和颯の兵士が圧倒的に上手い。

 だが、勝家軍の兵士たちも、百姓だ。力なら、ある。

 人数が多く陣形を整えた勝家軍が、優勢だ。

 だが、和颯軍の兵士には覇気がある。

 前線が入り乱れ、敵味方がもみ合い、多くの血が流れた。

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