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俺の妻は忍(しのび)ですか?  ―― そして、次に殺される男は俺ですかっ!?  作者: ひの
20、稲生

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251/348

~柴田 勝家~ 9月27日 朝9時

 秋は雨が多いが、乾燥させなければならないものも多い。

 特に米と、稲わら。

 米は言うまでもないが、稲わらもとても大切な資源だ。縄をなったり草履を編んだり、俵や各種入れ物の材料にしたり。牛馬の餌にもなる。

 だが、雨が降った後は、きちんと風を通して乾燥させないと、冬の間にカビが生えたり腐ったりしてしまう。


 だから雨上がりの次の日は、皆忙しい。

 そして、今日は『雨上がりの次の日』だ。


 「9月27日の早朝に本家前集合」

 近隣の村には、村長を通じて厳重に命令しておいたが、実際に1,000人が集まったのは、朝の8時をだいぶ過ぎたころだった。

 ひと仕事を終えた農民たちの肌は、軽く汗ばんでいる。


 ――まあいい。

 柴田勝家は、彼らの人数を数えながら深呼吸して、不快な気持ちを閉じ込める。

 おおむね集まったようだ。


「出発する! おれに続け!」

 全軍に宣言して、先頭を行く。


 目的地は稲生村。

 突然信勝さまに反旗を翻した、織口和颯さまが建設している砦を破壊する。これが今回のミッションだ。

 林兄弟も協力してくれる手はずが整っている。



 予定よりも遅い出発だ。

 だが遅刻者が出るのは想定の範囲内。

 目的地の稲生村はここから9㎞だ。

 昼までに出発すれば、日があるうちに到着できる。急ぐ必要はない。


 那古野から稲生までは3km。1時間もかからないから、勝家が到着するころには林兄弟もやってくるだろう。

 夜までに合流して、軽い打ち合わせの後、野営すれば良い。


 明日の朝、全員で攻撃開始だ。

 稲生村に作られた砦を壊す。

 抵抗する者がいれば戦うつもりだ。だが、さすがの和颯殿も1700人の軍勢を前に、本気で抵抗してくることはないだろう。

 戦力差がありすぎる。戦いはすぐに終わるはずだ。



 砦の撤去が、明日の午前中に終われば、そのまま末森へ戻って解散。

 時間がかかるようならもう一泊して、次の日に帰還。

 いずれにせよ、参加者への日当が発生するのは、集合から4日目以降なので、日当は発生しない。だから、帰還を焦る必要はない。


 信勝様からは、『和颯殿が反省するようなら、命はとるな』と言われている。我が(あるじ)ながら、甘い。

 だがまあ、腐っても兄弟だ。母上殿も、信勝殿に泣いてすがって和颯殿の命乞いをしているとか。

 それに、和颯殿は自由奔放だが、率いる親衛隊は、織口家本家にとっても貴重な戦力だ。勝家には、近所の農村や武家で持て余した、ごろつきやあぶれものの寄せ集めにしか見えないのだが、とにかくやたらと忠誠心が高い。

 美濃で斎藤道三が亡くなってから、北の国境で不穏な動きが頻発している。それをことごとく蹴散らしているのが、和颯殿の親衛部隊。

 

 仕方がないか。

 北からも東からも脅威が迫っている今、織口家の中で争うのは愚かだ。


 和颯殿も、1,700人の軍勢を見れば、もはや抵抗しようなどとは思わないはず。

 これからは反省して、おとなしく本家に従うようになるだろう――。



 勝家は、馬の上から後ろを振り返った。

 徒歩の参加者たちがぞろぞろとついてくる。

 雨上がりの道は人が一人通るごとに僅かに泥水を染み出させる。

 列の後ろになるほどに道が悪くなるので、後続部隊がやや遅れがちだ。


 勝家は、小さくため息をついて、馬の歩みを少し緩めた。

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