~柴田 勝家~ 9月27日 朝9時
秋は雨が多いが、乾燥させなければならないものも多い。
特に米と、稲わら。
米は言うまでもないが、稲わらもとても大切な資源だ。縄をなったり草履を編んだり、俵や各種入れ物の材料にしたり。牛馬の餌にもなる。
だが、雨が降った後は、きちんと風を通して乾燥させないと、冬の間にカビが生えたり腐ったりしてしまう。
だから雨上がりの次の日は、皆忙しい。
そして、今日は『雨上がりの次の日』だ。
「9月27日の早朝に本家前集合」
近隣の村には、村長を通じて厳重に命令しておいたが、実際に1,000人が集まったのは、朝の8時をだいぶ過ぎたころだった。
ひと仕事を終えた農民たちの肌は、軽く汗ばんでいる。
――まあいい。
柴田勝家は、彼らの人数を数えながら深呼吸して、不快な気持ちを閉じ込める。
おおむね集まったようだ。
「出発する! おれに続け!」
全軍に宣言して、先頭を行く。
目的地は稲生村。
突然信勝さまに反旗を翻した、織口和颯さまが建設している砦を破壊する。これが今回のミッションだ。
林兄弟も協力してくれる手はずが整っている。
予定よりも遅い出発だ。
だが遅刻者が出るのは想定の範囲内。
目的地の稲生村はここから9㎞だ。
昼までに出発すれば、日があるうちに到着できる。急ぐ必要はない。
那古野から稲生までは3km。1時間もかからないから、勝家が到着するころには林兄弟もやってくるだろう。
夜までに合流して、軽い打ち合わせの後、野営すれば良い。
明日の朝、全員で攻撃開始だ。
稲生村に作られた砦を壊す。
抵抗する者がいれば戦うつもりだ。だが、さすがの和颯殿も1700人の軍勢を前に、本気で抵抗してくることはないだろう。
戦力差がありすぎる。戦いはすぐに終わるはずだ。
砦の撤去が、明日の午前中に終われば、そのまま末森へ戻って解散。
時間がかかるようならもう一泊して、次の日に帰還。
いずれにせよ、参加者への日当が発生するのは、集合から4日目以降なので、日当は発生しない。だから、帰還を焦る必要はない。
信勝様からは、『和颯殿が反省するようなら、命はとるな』と言われている。我が主ながら、甘い。
だがまあ、腐っても兄弟だ。母上殿も、信勝殿に泣いてすがって和颯殿の命乞いをしているとか。
それに、和颯殿は自由奔放だが、率いる親衛隊は、織口家本家にとっても貴重な戦力だ。勝家には、近所の農村や武家で持て余した、ごろつきやあぶれものの寄せ集めにしか見えないのだが、とにかくやたらと忠誠心が高い。
美濃で斎藤道三が亡くなってから、北の国境で不穏な動きが頻発している。それをことごとく蹴散らしているのが、和颯殿の親衛部隊。
仕方がないか。
北からも東からも脅威が迫っている今、織口家の中で争うのは愚かだ。
和颯殿も、1,700人の軍勢を見れば、もはや抵抗しようなどとは思わないはず。
これからは反省して、おとなしく本家に従うようになるだろう――。
勝家は、馬の上から後ろを振り返った。
徒歩の参加者たちがぞろぞろとついてくる。
雨上がりの道は人が一人通るごとに僅かに泥水を染み出させる。
列の後ろになるほどに道が悪くなるので、後続部隊がやや遅れがちだ。
勝家は、小さくため息をついて、馬の歩みを少し緩めた。




