~陽の巻~ 篠木村
篠木村では、倉に米が入りきらず、いったん倉に納めた米俵を出して、もう一度積みなおしているところだった。
「あれ~? 和颯様じゃないですか?」
村長の息子が、満面の笑みで手を振った。
今日は、篠木村の村長は、村長会議で隣村に出かけている。冬の間の、山の木の伐採の権利について、近隣の村同士で調整しているはずだ。会議の日程は一益が探ってきた。
「ご覧ください! 今年は豊作ですよ!」
「うんうん、良かったな。
まだ、信勝に年貢は納めていないんだろう?」
「ええ。
倉に収まらないので、早めに年貢を納めてしまおうかと相談していたところです。
ただ、信勝様のいらっしゃる末森まで、米を運ぶための人手が足りなくて――」
「うんうん、この時期はみな、やることがたくさんあって忙しいからな」
「和颯様は、何をしにいらしたんですか?
兵士達をたくさん引き連れて。国境警備ですか?」
「――いや、そういうわけじゃないんだ」
「はっ!! もしや、お手すきだったりしますか?
人手が余っているなら、この米を運ぶのを、手伝っていただけませんか?
空をご覧ください。明日は、きっと雨です。
雨が降ったら、せっかくの米が水に濡れてしまう――」
「うんうん。年貢米は、俺たちが運んでやろう。
ちょうど、荷車も持ってきている」
「良かったぁ! ありがとうございます!!
お~い、みんなぁ!
和颯様が、米を運んでくださるって――」
「おお」「それは良かった」「ありがたい」といった声が口々に聞こえ、皆が年貢米を運んできた。
一益と可成が指揮を執り、兵士たちも手伝って、年貢米が次々と荷車に積まれていく。
収穫した米の半分弱が、領主の取り分だ。
年貢米は荷車に山積みにされ、厳重に縄がかけられた。
大勢の兵士たちによって取り囲まれた荷車が、ゆっくりと動き出す。
俺たちは、その荷車を見送った。集まってきた百姓たちも、ゆるゆると解散し始める。
村長の息子が、俺を見た。
「ああ、これで安心だ。ありがとうございます。
和颯様、あちらで湯でもお飲みになりますか?」
「いや、いい。ありがとう。
あの米は、間違いなく運んでおくぞ」
「ありがとうございます! 助かります!」
「だが、本家ではない。俺の屋敷に、だ」
「――……んん!?
所領替えですか? 聞いてませんけど?」
「うん、今言った」
「――あ~……。
信勝様は、ご存じで――?」
「いや。俺が、今、決めた」
「――え~っと。あの。
話が、読めないのですが」
「――だよな?」
俺はにやりと笑った。
俺の周りには護衛兵。
困惑顔の村長の息子。
一度は解散しかけた村の皆も、不安そうな顔でこちらを見ている。
俺は、村の外を進んでいく荷車を見た。だいぶ村から離れたようだ。――そろそろ、いいだろう。
俺は不安を顔に出さないようにしつつ、ゆったりした動作で馬にまたがった。視界が高くなる。
俺は大きく息を吸い、村の皆に向かって話し始めた。
「皆、聞いてくれ。
俺は、どうにもこうにも、信勝のやり方には賛成しかねる。
そこで、袂を分かつことにした。
信勝の直轄領・ここ篠木は、今日から俺の領地とする。
今年の年貢はもう受け取った。
皆、これからもしっかりと働いてくれ」
「えっ? ちょっ、待っ――」
俺は視点を定め、村長の息子を見下ろす。
「信勝は脇が甘いからな。
ついでに、稲生村の年貢も俺がいただくことにしようと思う。
悔しかったら、実力で守ってみろ。
――信勝に、伝えておけ。
じゃあ、な」
俺は馬に合図を送り、発進させる。
「えっ、ちょっと、えっ、えっ、ええっ~!?
困りますって。ちょっと、和颯様~!!?」
騒然とする篠木村。
「どうするよ!? 年貢米、持っていかれたぞ!」
「力づくで取り返せ!」
「バカ言うな!」
「あっちには兵士がいる! 人数も多い! 無理だ!」
「信勝様に連絡だ! 急げ!!」
農民たちの切羽詰まった声を背中で聞きながら、俺達は米を積んだ荷車を押していく。そのまま悠々と清州に戻った。




