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俺の妻は忍(しのび)ですか?  ―― そして、次に殺される男は俺ですかっ!?  作者: ひの
20、稲生

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~陽の巻~ 篠木村

 篠木村では、倉に米が入りきらず、いったん倉に納めた米俵を出して、もう一度積みなおしているところだった。


「あれ~? 和颯様じゃないですか?」

 村長の息子が、満面の笑みで手を振った。

 今日は、篠木村の村長は、村長会議で隣村に出かけている。冬の間の、山の木の伐採の権利について、近隣の村同士で調整しているはずだ。会議の日程は一益が探ってきた。


「ご覧ください! 今年は豊作ですよ!」

「うんうん、良かったな。

 まだ、信勝に年貢は納めていないんだろう?」

「ええ。

 倉に収まらないので、早めに年貢を納めてしまおうかと相談していたところです。

 ただ、信勝様のいらっしゃる末森まで、米を運ぶための人手が足りなくて――」

「うんうん、この時期はみな、やることがたくさんあって忙しいからな」


「和颯様は、何をしにいらしたんですか?

 兵士達をたくさん引き連れて。国境警備ですか?」

「――いや、そういうわけじゃないんだ」


「はっ!! もしや、お手すきだったりしますか?

 人手が余っているなら、この米を運ぶのを、手伝っていただけませんか?

 空をご覧ください。明日は、きっと雨です。

 雨が降ったら、せっかくの米が水に濡れてしまう――」


「うんうん。年貢米は、俺たちが運んでやろう。

 ちょうど、荷車も持ってきている」

「良かったぁ! ありがとうございます!!

 お~い、みんなぁ!

 和颯様が、米を運んでくださるって――」


 「おお」「それは良かった」「ありがたい」といった声が口々に聞こえ、皆が年貢米を運んできた。

 一益と可成が指揮を執り、兵士たちも手伝って、年貢米が次々と荷車に積まれていく。

 収穫した米の半分弱が、領主の取り分だ。

 年貢米は荷車に山積みにされ、厳重に縄がかけられた。

 大勢の兵士たちによって取り囲まれた荷車が、ゆっくりと動き出す。

 俺たちは、その荷車を見送った。集まってきた百姓たちも、ゆるゆると解散し始める。


 村長の息子が、俺を見た。

「ああ、これで安心だ。ありがとうございます。

 和颯様、あちらで湯でもお飲みになりますか?」

「いや、いい。ありがとう。

 あの米は、間違いなく運んでおくぞ」


「ありがとうございます! 助かります!」

「だが、本家ではない。俺の屋敷に、だ」


「――……んん!?

 所領替えですか? 聞いてませんけど?」

「うん、今言った」


「――あ~……。

 信勝様は、ご存じで――?」

「いや。俺が、今、決めた」


「――え~っと。あの。

 話が、読めないのですが」


「――だよな?」

 俺はにやりと笑った。


 俺の周りには護衛兵。

 困惑顔の村長の息子。

 一度は解散しかけた村の皆も、不安そうな顔でこちらを見ている。

 俺は、村の外を進んでいく荷車を見た。だいぶ村から離れたようだ。――そろそろ、いいだろう。


 俺は不安を顔に出さないようにしつつ、ゆったりした動作で馬にまたがった。視界が高くなる。

 俺は大きく息を吸い、村の皆に向かって話し始めた。


「皆、聞いてくれ。

 俺は、どうにもこうにも、信勝のやり方には賛成しかねる。

 そこで、袂を分かつことにした。

 信勝の直轄領・ここ篠木は、今日から俺の領地とする。

 今年の年貢はもう受け取った。

 皆、これからもしっかりと働いてくれ」


「えっ? ちょっ、待っ――」


 俺は視点を定め、村長の息子を見下ろす。

 

「信勝は脇が甘いからな。

 ついでに、稲生村の年貢も俺がいただくことにしようと思う。

 悔しかったら、実力で守ってみろ。

 ――信勝に、伝えておけ。


 じゃあ、な」

 俺は馬に合図を送り、発進させる。


「えっ、ちょっと、えっ、えっ、ええっ~!?

 困りますって。ちょっと、和颯様~!!?」

 騒然とする篠木村。


「どうするよ!? 年貢米、持っていかれたぞ!」

「力づくで取り返せ!」

「バカ言うな!」

「あっちには兵士がいる! 人数も多い! 無理だ!」

「信勝様に連絡だ! 急げ!!」


 農民たちの切羽詰まった声を背中で聞きながら、俺達は米を積んだ荷車を押していく。そのまま悠々と清州に戻った。


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