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俺の妻は忍(しのび)ですか?  ―― そして、次に殺される男は俺ですかっ!?  作者: ひの
20、稲生

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~陽の巻~ 稲生村のはずれ・9月

 今、稲生村の南東の外れでは、兵士たちが集まって土を掘り、木の板を並べて簡単な砦を作っている。



 俺は篠木に行く前に、稲生に立ち寄ることにした。


 俺は馬から降り、ゆっくりと歩いて近づいていく。

 砦の補強チームの男が一人、疲弊した顔を上げてこちらを見た。


 俺は笑顔で手を振り、声をかけた。

「お、犬六じゃないか。頑張ってるか? 困ったことはないか?」


 犬六は新入りだ。

 動きが緩慢で、鈍くさい。武器の扱いもうまくないと聞いている。

 

「へぇ……まあ……」

 犬六は気まずそうに眼をそらした。

 犬六の両隣にいた二人が、不機嫌そうな顔をしてぷいっと横を向いた。


 あ……。うまくいってないな。

 ぎくしゃくとした空気がこの場を支配している。


 どうしよう。

 何か、良い所。犬六のいいところを、探して見つけて、皆に教えてあげないと。

 良い所、良い所。

 絶対に、ある。誰にだって、ある。

 だから犬六にだって、絶対に、何か、あるはずなんだ。


 俺は必死で犬六を観察しながら、彼が補修した箇所に目をやる。

 両側の二人とは、明らかに範囲が狭い。

 ――仕事が遅い。

 確かに、そういう苦情は聞いている。

 だけど。


「犬六が補修した場所が一番、丈夫そうだ!」

 俺は声を張り上げた。


「見ろ!

 土が厚く積まれていて、木の隙間にまでしっかり入り込んでいる。

 仕事が丁寧なんだな!」


 犬六の顔が、耳まで赤くなった。

「――だけど……ワシは仕事が遅くて……」


「確かに! 両隣の二人と比べると、作業できたエリアは半分以下みたいだ。

 皆がこのペースで働くと、補修工事が終わらない。それは、困るな」

 周りから失笑が漏れた。

 俺は笑顔で指示を出す。


「犬六は、場所を移れ。

 砦の真ん中の、一番狙われやすい所の担当だ。

 一通りの補修は終わっているから、仕上げだけでいい。時間はかかってもいいから、丁寧にやってくれ。

 砦の中で、一番大事な場所だ。ここにいる全員の命がかかっているからな。しっかりやってくれ。

 頼りにしているぞ!」


 犬六は大きく頷くと、いそいそと、砦の真ん中へと歩いていく。

 幾人かが犬六の肩をたたたき、何か声をかけた。

 犬六は嬉しそうに答えた。

 

「平次! 犬六が作業していた場所の補強をやってくれ。

 速さならお前が一番だ。ここの作業は遅れている。大急ぎだ!」


「へい!」

 離れた場所から明るい声がして、少しづつ場が明るくなっていく。


 うんうん。

 みんな、良い顔をしてきたぞ。


 あと不満そうなのは――。

「小平太! お前は入ってから日が浅いのに、早速、大活躍だな!

 この前、北の国境でいざこざがあったとき、敵の兵士を二人蹴散らしたのを見ていたぞ。

 次も頼むからな!」

 小平太の顔がほころぶ。


 俺はささっと野良着に着替えた。

 犬六の隣へ土を運ぶ。


「半兵衛。

 お前は、前回と前々回は運が悪かったようだが、いつも良い動きをしているのを知っているぞ。俺は密かに『お前はいつかやるやつだ』と思っている。

 焦らずともチャンスは必ずやってくるから、しっかり励んでくれ! ちゃんと見ておくからな!」


 30分くらいかけて工事の様子を確認したり、一緒に作業したりながら、皆に声をかけていく。

 

 一人一人の顔が明るくなっていくと、俺の気持ちも明るくなる。

 不満そうな表情が一つ減るごとに、チームの雰囲気がよくなって、皆がきびきびと動くようになっていく。

 最後にもう一度、そこにいる全員の表情を確認して、俺は稲生を離れた。


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