32 白いツバサ 流転転生 本編27
桜色の髪をした女性は、けれど選達の事が見えていないようだった。
おそらくあらかじめ過去に記録されていた映像の様な物だろう。
彼女は、一息ついてから話を始める。
サクラス「はじめまして、私の名前はサクラス・ネインです。遺跡は、凛水の首飾りを持って魔法陣の上で立ち、その上で魔法を使えって魔力を放出すれば自然に発動するわ。元の世界に帰還する方法も同時に起動するから安心してください」
その表情は、痛みをこらえる様な悲し気なものだった。
サクラス「こうして、私の姿を見ていると言う事は、異世界から召喚した貴方達は無事にたどり着けたと言う事ですね。でも、遺跡を動かすその前に少しだけ私の話を聞いて欲しいの」
そうして、サクラス・ネインはなぜこの世界に選達を召喚したのかという理由について話し始める。
サクラス「私は異界から救世主たる者を召喚するにあたり、白いツバサを持つ者が対象に含まれるようにしました。心に白いツバサを持つ者達。それは常識にとらわれない自由な心を持っている者の事です。この世界では魔法を使える事が常識として通っているけど、別の世界ではどうなのか分からない。魔法が使えない世界で育ってきた大人達よりも、子供達の方が常識にとらわれることなく、この世界でも魔法を使えるようになると……そう考えたからです」
つまり、この世界でやっていくための力……魔法の力を、召喚した人間に身に着けさせるには、常識に捕らわれ固定観念に縛られた大人では、駄目だった……だから子供を選んだとそういう風にサクラスは続ける。
まあ、子供の中からだったら選達は同じ年頃の人間よりも、強い方にいる自覚はある。それで選ばれてしまったのかもしれない。
サクラス「こんな事に巻き込んでしまってごめんなさい」
申し訳なさそうにいうサクラスは、見えていないだろう選達へと深々と頭を下げる。
その表情はとても辛そうで、自分で問題を解決できない事が悔しくて仕方がないようだった。
サクラス「この世界の住人である私達が解決できれば良かった。けれど、完成した鍵……凛水の首飾りは。不完全な物で、私達には使えない物だったから……」
選「それで、別の世界の俺達に解決してもらおうと思ったのか」
緑花「謎が解けたわね」
サクラス「どうか、この世界を、この世界に生きる人たちを、彼らが歩んで行く未来を救ってください、名前も姿も分からない異界の者達よ」
悲痛な色を込めた瞳が、虚空をさまよう。
この映像を残す時にサクラスが何をどんなふうに思って喋っていたのか、その全てを理解で切る方法は選達にはない。
けれど、これだけは分かった。
サクラスは本当にこの世界を大切に思って、救いたいと思っているのだと。
選「ああ、もちろんだ」
最後の選の言葉を聞くのを待っていたかのように、その瞬間サクラスの映像は消えて行った。




