二、
大量の魑魅魍魎がこちらに押し寄せてくる。
護はその様子を見ても表情一つ変えず、刀印を結び、宙に一文字を描く。その瞬間、不可視の障壁が彼らの進行を止めた。
ぎいぎいと、立て付けの悪いドアのような音を立てて、魑魅魍魎が悲鳴を上げる。
「お前たちを相手にするのは、少しあとだよ」
障壁の向こう側にいる妖に向かって、そう言いながら、護は独鈷を地面に突き刺し、右手で作った拳を左手のひらに押し付ける。すると、手のひらと拳の隙間から、かすかに白い光が溢れた。そして、勢いよく右手と左手を引き剥がした。
すると、彼の右手にはひと振りの剣が握られていた。
「へぇ?新しい神器か」
「いや、神器というほど大層なものじゃないよ……なじみの深い人からの、贈り物さ」
勇樹の言葉に、護はかすかに微笑みながらそう返す。
刃から放たれる白く冷たい光が、その剣が鉄で作られていることを物語っている。刃と柄の間に目をやると、五芒星の紋が記されていた。どうやら、土御門家の家紋をわざわざ刻んでくれていたようだ。
そして、刃から放たれる清冽な気配から、その剣が力を秘めた退魔の剣であることが理解できた。
護が友護から贈られた剣を取り出したことを知った月美は、柏手を打つ。その瞬間、月美の足元に魔法陣が現れる。掌を引き離すと、護と同じようにその隙間に光の棒が現れる。
月美がそれを右手で掴むと、光が破片となって崩れ落ち、漆で塗られた竹か木で作られたと思われる棒状のものが現れた。光が完全に剥がれ落ちると、棒状のものがその正体を現した。
月美の手に握られていたのは和弓だった。よく見る和弓より、少し短い。だが、その作りはしっかりとしているもののように感じられる。芸術品として、展示するだけでも十分な価値がありそうだ。
だが、それがただの和弓ではないことは、そこから溢れ出ている神気から察することができる。護の持つ退魔の剣と同じように、手に持つ部分の近くに桜花の紋様が刻まれていた。
なぜ桜花なのか、友護に問いかけると、なぜだかはわからないがこれを入れなければならないと思った、と不思議そうな笑みを浮かべながら答えていることを、月美は覚えている。
そのことを思い出しながら、月美は寂しげに微笑み、弓を構える。だが、矢はつがえない。
桜はその様子を見て、大丈夫なのか、不安げに月美に尋ねる。月美は桜の不安をかき消すかのように明るく微笑み、大丈夫、と返す。
「まぁ、見てて……」
そう言いながら、弦を引く。すると、弓と弦の間で月美の霊力が細い光の棒へと形を変えた。月美は後方から進んでくる妖に向かって、霊力の矢を放つ。
放たれた矢は、一体の妖に命中し、霧散した。いや、一体だけではない。余波によってあとから続いていた二、三体の妖も同じように塵と化していた。
弓の弦を弾く音は、鳴弦と呼ばれ、邪気や汚れを払うとされている。おそらく、友護が特注し、念入りに神気を込めた弓であるからこその技なのだろう。
「すごい……」
「でしょ?」
桜の素直な感想に、月美は得意げに微笑み、もう一度、弓を構えた。
一度に複数の妖を退散できるとは言え、戦力的にこちらが不利であることに変わりはない。先ほどの明るい微笑みから一転、真剣な顔つきになった月美を見て、桜も気を引き締める。
――こっちも、負けていられない!
召集がかかるまでの数日間、修練を積んでいたのは桜も同じだった。
杖を構え、意識を集中させる。召喚すべき精霊に、今まで呼び出してきた、心強い仲間に。




