十、
その日、土御門家は少しばかりばたついていた。
というのは、土御門家と縁の深い土地、出雲から一人の客人が来ていたためだ。
「えらく、突然の訪問だな。友護くん」
「思い立ったが吉日、と申しますしね……完成次第、一刻も早く届けるようにと、御使いからのお達しでしたので」
「……ということは、護に届け物、ということかな?」
何を届けるのかは知らないが、御使いという言葉から、翼はおおよその察しがついたかのように頷き、友護に問いかけた。その問いかけに、友護は、はい、と答え、二つの包を翼の前に置いた。
「一つは、護くんに。そしてもう一つは、月美さんに……きっと、あの子達の役に立つはずです」
「……ならば、それは直接渡してもらえないだろうか。二人共、久々に君の顔を見たいらしい」
翼はそう言いながら、友護の背後を見る。友護は翼が自分の背後を見ていることに気づき、振り向いてみる。すると、視界に二人の高校生が入った。
男子用、女子用の差はあったが、基本的なデザインは同じようだ。それだけで、同じ高校に通っている生徒だということがわかる。
そしてなにより、年に一度だけとはいえ、毎年会っている顔と、昨年までは同じ時間を一緒に過ごしていた、妹と言っても過言ではない少女の顔を忘れることはない。
「久しぶりだね。護くん、月美」
「お久しぶりです、友護さん」
友護の微笑みながらの挨拶に、護は微笑みを返しながら答える。それに続き、月美も挨拶する。だが、その様子はどこかおかしい。
「兄さ……友護さん、お久しぶりです」
一瞬だけ、兄さん、と呼びかけ、言いよどむ。護はその様子を見て、少しばかり表情が曇った。
友護は月美の実の兄だが、月美は彼を兄と呼ぶことはできない。そして、友護もまた、月美を実の妹であるということを忘れている。
そうなってしまったのは、月美が護の命を救いたいと、│葛葉姫命に願ったため。その対価として、月美は土御門家との関係性以外の関係性を支払った。
そうなる状況を作ってしまった張本人として、護は、罪悪感を覚えざるを得なかった。
「……二人共、こちらに」
翼がいつまでも部屋に入らない二人の空気と、護の辛気臭い雰囲気を断ち切るかのように声をかける。その呼びかけに答えるかのように、護と月美は翼の隣に正座する。
二人の目の前には、先程友護から渡された包が置かれている。
「……御使い様から、君たちにこれを渡して欲しいと言われてな」
そう言って、友護は包を開く。
護の前に置かれた包の中には平形銅剣のような形状をした剣が、月美の前に置かれていた包の中には弓が入っていた。
「これは……霊剣と霊弓、ですか?」
「そのとおり……これから、何が起こるのかはわからないが、いずれ武具が必要になるだろう、と」
「……シロ様が?」
「御使い様が」
月美の問いかけに、友護は頷いて答える。
そのやりとりが少しばかり微笑ましく、護はくすりと微笑み、自分の目の前に置かれた剣をジッと見つめる。
剣からは、白い陽炎が見えている。
どうやら、かなり強い神気が込められているようだ。さらに、葛葉姫命の加護も与えられているようだ。それは、剣だけではなく、弓の方も同じようだった。
「……」
護は、おもむろに剣を手に取る。すると、剣は光の粒子へと変わり、護の胸へと流れ込んでいった。
「おろ?」
護が突然のことに少しばかり間の抜けた声を出すと、友護はくすくすと笑い、月美にも弓を手にとってみるように伝える。
指示されるがまま、月美は目の前に置かれた弓を手にとってみる。よく見る和弓ではあるが、その長さは少しばかり短いためだろうか、月美の細腕でも片手で簡単に持ち上げられた。
弓は、月美に持ち上げられた瞬間、剣と同じように光の粒子へと変わり、月美の胸へと流れ込んでいった。
「これって……」
「武具に、少し細工をしたのさ。いつ、どこで妖に襲われるか、わからないからね」
これから起こることが、なんなのかはわからない。けれど、俺にできることは、出来るだけ手伝わせてもらう。
友護は、照れくさそうに微笑み、二人にそう告げる。
月美はその微笑みが自分だけに向けられたものではないことを理解していた。理解していたけれども、その微笑みと言葉に、兄妹の絆が微かにつながっているのではないかという思いを抱かずにはいられなかった。
しかし、護は友護の言葉に、覚悟を決めろと言われているような気がしてならなかった。
――たぶん、この剣を鍛えてくれたのは、御使い様からの言葉があったから……ということは、これから、大きな何かが起きるということ……
ならば、いや、だからこそ、なのだろうか。月美や大切なものを守るために、自分が何をなすべきか。それを問われているような気がしてならなかった。




