三、
「へ?」
突然といえば突然の忠告に、男子も女子も目を丸くした。
当然といえば当然だろう。このクラスの、いや、この学園にかようほとんどの人間全員は、土御門家の人間が呪術に精通した一族であることを知らない。そもそも、護は自分が何に詳しいのかすら周囲に話していない。
驚かない方が無理、というものだ。
そのことを思い出した護は、額を抑え、気づかれないようにため息をつきながら続けた。
「……まじないとか薬草の類には少し詳しくてな……その呪文、効力は確かなものだけど、そういうものは大体の場合、使い手が未熟であればあるほど、生命力を削ぐようになってるんだ」
それは、護自身が幼い頃から教えられてきた知識だ。
霊力と生命力はほぼ同一のもの。霊力が足りなくなれば、当然、生命力が代替として消費される。つまり、正式な修行を積んでいない人間がまじないを行使した場合、霊力の代わりに生命力を削ぐことになり、最終的には死に至ることがある。
「……まじかよ」
「人の生き死にに関わる話を冗談ですると思うか?」
護の真剣な目に、男子は思わず身を引く。
そして、首を横に振り、できる限り使わない、と答えた。
護はそれに対して、それでよし、と答え、肩を叩きながらその場を離れた。
しかし、その顔は未だ険しいままだった。
――どこのどいつだ?こんなまじないばら撒きやがるのは……
はっきり言って、気に入らない。
それが護の中にある答えだ。
このようなかたちでまじないをばらまき、面白半分でそれを続ける人々を増やす。そして、危険とも知らずに使い続けた人間を、最終的には死に追いやる。
まじないを生業としてきた一族の末裔として、これ以上に不愉快極まりないものはない。
――絶対とっちめてやる……
護は穏やかならざる雰囲気を醸し出しながら、密かに心の内で誓った。
その頃、別の場所で明美は友人たちとおしゃべりに興じていた。
「本当なんだってば!夕方歩いてたら、いつも見てる景色なのに違う場所にいたんだって!」
「夢でも見たんじゃない?」
「ホントだってば!月美も一緒にいたんだもの」
どうやら、先日の一件が話題に持ち上がっているようだ。
しかし、話に加わっている女子はそのことを全く信じていない。話を振られた月美も、どう答えたものかと少々困惑している。
フォローしなければならないことは、重々承知している。しかし、本当のことを話して、あれが現実であったことを明美に改めて理解させるのも、危ない予感しかしない。
「う……う~ん……どうだったかなぁ?」
「あ、はぐらかした」
「はぐらかしてないよ~」
月美は微笑みながら答えるが、口元が若干ひきつっているあたり、はぐらかしていないということ自体は嘘なのだろう。
その様子を見て、明美は納得いかないといった風情で頬を膨らまし、腕を組んで月美を睨んだ。
――ま、護……清くん……早く来てぇ……
傍から見ていれば微笑ましい光景なのだが、当の本人からしてみれば耐え難い空気なのだろう。
月美はひたすらに、友人二人がフォローに回ってくれることを祈るだけだった。




