共鳴の魔女ヒルデ②
ある村に、互いを呪い合う人々が暮らしていました。
貸した道具が壊れていたとか、隣の家の木の枝が邪魔だとか、そんな些細な言い争いが、毎日あちこちで起こっていたのです。なぜそれほど嫌い合っているのか、もはや誰も覚えていませんでしたが、村には常に、刺々しい空気で満ちていました。
その村で育った一人の若い娘は、そんな諍いに背を向け、誰とも関わらず、ただ静かに日々をやり過ごしていました。娘は、いつかこの村を出ていく日を夢見ていました。この場所ではないどこかなら、誰かと普通に話せる。そう思って、息を潜めていたのです。
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年に一度の収穫祭の夜、村人たちはいつものように広場に集まり、いつものように怒鳴り合いました。娘は広場の端に一人立ち、早く終わらないかと空を見上げていました。
「かわいそう。こんなにも、つながれずにいるなんて」
ふと、うしろから声がしました。
驚いて振り向くと、油膜のような肌を持つ異様な姿の女が、娘のすぐそこに立っていました。
娘がなにか言うより先に、女が一つ、歌声を上げました。
罵詈雑言がかき消され、村人たちの喉が一斉に震えはじめました。嫌いな相手の声と自分の声が溶け合い、やがて体ごと引き寄せられるように、人々は互いに近づいていきました。指が触れ、腕が混ざり、粘土のようにこねられながら、老人も子供も、憎み合っていた隣人たちも、一つの大きな塊へと変わっていきました。
娘には、それがひどくゆっくりと見えました。
あまりのことに足が動きませんでした。声も出ませんでした。ただ、目だけが、広場で起きていることを映し続けました。
女は娘に言いました。
「あなたも、ちゃんと一緒になれるわ」
女がまた歌い出そうと、その口をゆっくりと開くのを、娘はただ、眺めることしかできませんでした。
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翌朝、村を訪れた旅人が見たのは、広場の石畳の上に静かに広がる、油膜のような肉の山でした。誰の腕か、誰の瞳かもわからない無数の部位が幾重にも溶け合い、縒り合わさって、巨大な一つの塊になっています。そのあちこちに点在する無数の口からは、今も完璧な調和を保った合唱が響いていました。
旅人は腰を抜かして逃げ出し、二度とこの場所へ近づくことはありませんでした。
その村では、もう誰かが口論をすることも、娘が村を出ることもなくなったのでした。




